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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第六章 白い迫撃
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第百四十九話……造られた命2

「小僧、夢は醒めたか?」


「あ、ああ……」


 見れば、空もシモンも菅原も一歩もその場を動いてはいなかった。脂汗をにじませ、空の肩を叩いた猪熊はいち早く幻覚から覚醒したのだった。しかし、その顔色はよくない。

 空は着慣れない服を着た時のような違和感を覚え、判断力の鈍った頭を振った。


「見たんだろ、幻覚を?」


「あ、ああ、どうやらそうみたいだ……」


 中年の隊員猪熊の囁きに、空はどうにか答えていた。見れば、若い菅原はまだ幻想世界にいるのか、立ったまま意識を失っている。


「あんた、よく気がついたな?」


 能力者でもないのに。空は思った。

 少なくとも能力同士の無効化ではないはず。

 それなのに……。


「けっ、あんな幻覚を見せられて黙っていられるか」


「あんな?」


 夢で見たことが起きても覚えていることがあるように、空は先ほどまでの幻覚を明晰夢のように覚えていた。

 母親、妹、どこかの学校、クラスメイト、転校生、恋人、夫婦……。

 何だかキャストがおかしかったけどな……。でも……。

 悪い気分ではなかった。どちらかと言えば、最後の方は幸せな気分と言ってもいいほどだった。そのため、猪熊の怒気をはらんだ顔色の意味を理解しかねていた。


「俺は、妻や子に会わされた……」


 妻や子に、会わされた?


「二人はライトクリスマスでとうの昔に死んじまってる」


 苦虫を噛み潰すような猪熊の顔に、空は彼の怒りを理解したような気がした。

 猪熊は幸せな光景を見たに違いない。


「あいつは俺の大事なもんを利用した」


 いや、それは誤解だ。

 空はそう言葉にしようとしたが何かに阻まれたようにうまく言葉にできなかった。

 シモンが動く。その動きは緩慢で他の二体とは明らかに違う。


「お前は俺に聞いたろう? 生きるとは何なのか……」


 猪熊は先ほどより冷静さを取り戻したのか、それとも職業的習性なのか、銃を構えた瞬間、何かのスイッチが切り替わったように汗は引いていた。


「生きることは戦うことだ、敵を倒さなければ生き残れない」


 零れる言葉に殺気が宿る。空はゾワリと寒気がした。その殺気を読み取ったのか、応えるようにシモンの体に力がみなぎる。

 ダメだ、その答えは! 


「待て! 猪熊っ!」


「小僧、菅原を頼むぞ」


 違う、違う……!

 何かが違う。

 あの世界で自分は何を見た?

 あの世界で何に気がついた?

 俺の答えは?


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