第十三話……運搬
「これって何が入ってるんですかね?」
先頭を行く佐藤部隊の副隊長奥山は巨大なコンテナを眺めながら誰となく呟いた。
「さあな、でも、よほど重要なんだろな。これどけの人間をまわしてくるなんて」
隊長の佐藤はコンテナよりも、厳重すぎる警備に興味が引かれていた。
コンテナの中身が何なのかということは知らされていない。ただ、目的の場所に運ぶだけの簡単な任務だ。
「だいたいさ、今の世の中、どこの誰が襲撃してくるんだよ? 必要ないだろ?」
部隊の中でもそんな話が聞こえてくる。
「おい、よそ見をするなよ。今日は上村三佐も来てるんだ」
佐藤の声に部隊の隊員達のざわめきも色を変える。
「そのせいか、吉田さんがあんなに緊張していたのは」
奥山は妙に納得したようすまたコンテナを仰ぎ見た。
中身は何だろうな? 新兵器とか? 特殊な機材とかか? しかし、そんなものがこんな研究所に必要かどうかわからない。
「もっとも、それは俺達も似たようなもんかもしれないが……」
そもそも先ほどの隊員の言葉通り、誰かが襲撃してくるというのも考え難い。この研究所は色々な国が出資しているのだ。もし何か手を出そうものなら、それらの国を敵に回す事にだってなりかねない。
守衛団に関しては、研究所所長である松原の立案によって作られたものだが、佐藤には形だけのものような気がしてならなかった。
色々権力を持つと単純な力もほしくなる、ってことか……。
佐藤は嘆息すると、自分の仕事の意味を考えるよりも、意味を考えないようにする事で仕事に誇りを見出そうと勤めることにした。
「うーん、やっぱり車内で飲むコーヒーはまた一味違うわね」
上村は研究所を出る前に買ったカフェエリアの紙カップを片手に声を上げる。
「どこで飲んでも同じでしょう?」
「できれば、ビール片手にピクニックならなおよかったけどね」
「一応仕事よ」
山崎のツッコミにも上村は上機嫌に笑みを浮かべながら高橋に聞いたネタで、どう空をいじってやろうかと作戦を立てている。
「まあまあ、優子も飲む?」
紙袋からもう一つカップを取り出すと山崎に勧める。
「いいわ。コーヒーのミルク入りは嫌いなの」
中身がカフェラテだとわかっている。差し出されたカップも見ないまま拒絶すると、上村はそのまま薦める相手を変更した。
「んじゃあ、拓ちゃん。飲むでしょう?」
「い、いえ、自分は……いただきます」
上村に押し付けられ生真面目な吉田はカップを受け取って恐縮した。吉田の性格からすれば任務中にこんなものを手にしている事自体考えられないことだが、上村に言われては逆らえない。
「ところで、これ六研までいくんでしょう?」
「そうよ」
このペースじゃあ、まだまだかかるわね。ふむ……。
上村は手元においておいたA4サイズの書類にもう一度目を通した。
この件に関しての詳細が書かれている。
目的地、目的、時間、人員の数など。しかし肝心の事が触れられていない。
中身は何なのか……やっぱ、無しか。
早く帰りたいのも、そうだけど、気になるのよね……。
上村はコンテナを見つめると、思案顔で押し黙る。そんな彼女に山崎はやっと静かになったかと息をついた。
急に黙った上村に吉田は、カップを両手で持ったまま、ますます緊張するのだった。