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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第六章 白い迫撃
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第百四十八話……造られた命1

 今まで何を見ていた?

 空は、今まで自分がいたところをまるで映画でも見るかのように眺めていた。

 クラスメイトの千堂、転校生の冴木、担任の上村、妹のサヤ……それは現実ではない。それが今は何となくわかる。

 空は暗く長い一本道の上にポツンと立たされていることに気が付いた。

 恐怖は感じない。ただ、この世界には色彩はなく、明かりの乏しい巨大なトンネルの中にいるようだった。

 空はそこで自分が何か大きな流れの中に立たされていることを知った。

 これは……?

 空が答えを出そうとした考えを巡らせた時、数メートル先を歩く影に気が付いた。

 ホログラフィのように光を放つ人影に目を見張る。それは空自身、自分の姿だった。そしてそのとなりには女性が一人。

 ……?

 二人の年齢は今の空よりも少しばかり重ねていた。二人が特別な関係なのだと、空にもすぐに理解できた。

 その二人を歩んでいく姿を、空は少し離れてついていく。空は彼らの姿を見続けた。

 二人はお互いを気にしながら、近づいたり、離れたりを繰り返す。空は二人の関係にやきもきしながら見守っていたが、ついに我慢ができずに声をかけそうになった。

 ……あっ

 二人はお互いが触れ合うほどの位置まで近づき、やがて手が触れ、肩が触れ、結ばれた。

 空は胸を撫で下ろすと再び彼らを追い続けた。

 ……?

 時間の経過と共に彼女の体内には新しい命が宿った。命はすくすくと育ち、気が付くと女の腕には赤子が抱かれていた。

 子供……生まれた? 生まれる?

 空は誰かに呼ばれたのかと思い振り返る。

 今まで歩いてきた道は、新たな命に繋がっていた。そして、その繋がりは自分にも存在していること知る。

 命が繋がって……。


「……!?」


 突然、暗闇に幽鬼のように白い影が浮き上がった。


「クリエ!?」


「ワタシは、シモン……」


「シモン……?」


 身構える空にシモンの声が心に響く。

 巨人の口は動いていない。正面から話しかけられているはずなのにその方向性を感じない。周囲全方向から話しかけられているような感覚にそれが能力によるものだと気がつく。

 近くで見るシモンは見上げるほどに巨大だった。

 二メートルを超える身長、樹木を思わせる太い腕、岩肌のような厚い胸、腕の先にぶら下がる巨大な拳が有無を言わせず空を緊張させた。空は数歩下がって、巨人と距離をとる。それが巨人と対峙した時に、無意味な行為であるとわかっていても。

 しかし、離れてみてあることに気が付いた。


「カザミ、ソラ……」


 その声は見た目とは裏腹に穏やかだった。


「イノチとはなんだ? イキルとはなんだ?チカラを持つ子、ソラ……」


「……?」


 理知的な女性のようにも、柔和な男性のようにも聞こえる声はすがるように空に問いかける。その姿には生物兵器という印象はなく、何かに怯える子供のように弱弱しい。


「シモン、お前……」


「「小僧、目を覚ませ!」」


「えっ?」


 声。怒声。男の声。

 どこに? 誰だ? 

 その声に世界が壊される。

 崩壊を始める世界からシモンが姿を消すと、空は何者かに鷲掴みにされ、自分の体の中に叩き込まれたような気分で目を覚ました。

 そこは第六研究所だった。



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