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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第六章 白い迫撃
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第百四十四話……燃え上がる炎8

「傷の治りが遅くなりはじめたな……」


 蓮見は肩で呼吸をしながら、苦しみ悶える巨人に目を向けていた。

 巨人の回復は徐々に遅くなり、いまだに出血は止まっていない。

 巨人はジッと様子をうかがうように動きを止めていた。もちろん、少しでも動けば、蓮見の炎に触れることになる。

 蓮見の炎の中では蓮見がその熱で焦がされることはない。巨人はこの環境で生存するためには『バリア』を張らなければならない。

 『バリア』に力を回せば『ヒーリング』は弱くなる。かと言って『バリア』を消せば、回復までの時間の間に巨人の体は焼ける……。

 蓮見は息を荒くしながらも笑みを浮かべる。

『バリア』は蓮見の炎でも突破することはできない。それは聖が以前に火炎放射器を相手に実験していたことからもわかっていた。

 熱は遮断されている。


「でも……」


 炎の中で失われていく酸素はどうだ……?

 酸素は物理的な衝撃ではない。生命活動を行う上で必要不可欠なものだ。

 巨人の『ボイス』の扱いから、蓮見は巨人も自分達人間やあらゆる生物と同じように呼吸をしていると予想したのだった。

 酸素は蓮見の炎の星の内部ではどんどんと無くなっていく。

 ここから先は……。

 蓮見は薄くなっていく空気の中で、炎を維持するために意識を集中させた。

 膝をつき、体を起こしているのも苦しい。

 巨人の足を撃ったのは正解だったな……。

 感覚がしびれる。もう咄嗟に動くことは考えられない。

 この火の星から強引に突破されることを危惧して足を撃ったのであるが、動きを封じていることそのものが功をそうしていた。

 あとは、ただひたすらに耐えるだけ。

 巨人が倒れる前に倒れなければいい……。

 神楽……。

 蓮見は自分の意識を保つために何度も彼女の名前を口の中で呟いていた。

 やがて、薄れゆく意識の中で彼は夢想する。

 それは神楽と出会った頃のことだった。

 神楽、日倉、蓮見は幼馴染だった。父親のいない哲也は、母親の都合でその街へと越してきた。蓮見親子が移り住んだ家の隣の家に住んでいたのが、神楽だった。

 神楽にも、日倉にも父親はなく、それぞれの母親達は働かなけらばならなかった。

 そのため、近所に住む子供達だけで過ごすことが多かった。

 神楽は忘れてしまったかもしれないが、人見知りの哲也に、率先して声をかけてくれたことや友達の輪の中に入るきっかけを作ってくれたことを蓮見はしっかりと覚えていた。それは、まだ誰も能力に覚醒していない時の記憶だった。

 蓮見は懐かしげに笑みを浮かべる。

 一番最初に覚醒したのは日倉だった。彼女はそのことを隠し、誰にも言わなかった。しかし、その事をどこから嗅ぎつけたのか、研究所の人間がやってきて彼女を連れて行った。

 神楽は泣いていた。

 それから少しして、神楽の能力が覚醒した。

 神楽は日倉のあとを追うように蓮見の前から姿を消したのだった。


「神楽……」


 蓮見は幼いながらに天に祈った。自分も能力がほしいと。心から願った。


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