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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第六章 白い迫撃
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第百四十三話……燃え上がる炎7

 巨人の白い皮膚を弾丸が破り、獣の慟哭と赤い命が噴き出した。

 蓮見が撃ったのは巨人の両腿。巨人は立っていることができすに崩れ落ちるように膝をついた。

 や、やった!?

 一瞬神楽はそう思い、拳を握りしめた。そして思わず血に濡れた蓮見の背中に駆け寄ろとした。だが、神楽が感じた確信はすぐさま絶望に変わった。

 ペンキでも塗ったかのような巨人の白い腿を赤く染める血液は沸騰でもするかのように泡立ち、肉の捲れる傷口はすでに再生を始めていた。顔のない巨人の顔に苦悶と苦痛がひしめき合い、大気を震わすかの如く獣は鳴き声に戦慄を覚える。


「また、回復する!?」


「……ここからだ」


 愕然とする神楽をよそに、蓮見の両手に蒼い炎が纏う。炎は今までの勢いよりはるかにまし、天を焦がすほどに燃えがる。

 その勢いに神楽は茫然として蓮見を見ていた。蓮見の放つ、炎、そしてほのかに彼自身が光を放っていた。

 ……傷は回復するはずだ。

 『バリア』も展開されるようになる。『ボイス』もまた発射されるに違いない。

 チャンスは今しかないんだ。ここで勝負しなかったら、もう次はない。

 蓮見は自分の後ろで立ち尽くす神楽の姿を一瞥し、それから静かに言った。


「……神楽、言って置かなきゃならない事があるんだ……」


「えっ?」


 炎が揺らめく。蒼い炎が激しく燃え上がる。


「ずっと好きだったんだ。神楽の事」


「えっ!? ええっ!?」


 神楽は自分の耳を疑った。

 私? ええ!? 

 突然の事に頭が混乱して言葉にならない。

 蓮見はそんな神楽の反応を見るでもなく、そしてその答えを待つでもなく、巨人に向かい足を進めていた。

 すべてが終わったら言うつもりだった。ゴールしたら告白しろと、宮沼達に言われていた。蓮見自身そのつもりでいたのだった。


「ここが僕のゴールみたいだ……」


 蓮見から伸びた炎は激しく燃え盛り、竜巻のように伸びあがるとその渦は巨人と蓮見自身を飲み込んだ。


「て、哲也!? 哲也ぁぁぁっ!」


 神楽の叫びも炎の勢いに飲み込まれ、声は彼に届かない。炎はいびつな形を急速に変え、完全に球体へと姿を安定させた。蒼碧に輝くその球体は宇宙に浮かぶ惑星を思わせる。

 長く共に過ごした神楽ですら見たことがない炎の色と出力だった。

 蓮見がこれほどまでに大きな炎を出したのを彼女ですら見たことがなかった。


「す、すごい……」


 蓮見の炎はただの炎ではない。彼の意志が同調している。これほどの大きな炎と形を保っているのは相当に精神力を使うはずだった。

 同時に、この炎が燃え続けているということは、彼がこの炎の先で生きている証明でもあった。

 でも、どうして……? どうしてこんな事を……?


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