第百四十二話……燃え上がる炎6
大きい衝撃波を撃つことは、巨人も激しく体力を消耗しているに違いない。
「息が切れているんだよな?」
だから、連発はできない。だから、動きたくない、というわけだ。そして、瓦礫を飛ばしている間に体力の回復を待っているに違いない。
蓮見はゴクリと唾を飲んだ。
銃弾は四発しかない。
どうすればこの巨人を倒すことができる?
蓮見は今まで知りえた事を頭の中で整理し
ながら、自問自答を繰り返した。
巨人の攻撃を読み、避ける蓮見を、神楽は唖然として見ていた。
「哲也……」
幼馴染の蓮見の事は昔から知っている。
お世辞にも運動神経がいいとは言えず、はっきり言ってしまえば、戦いというものにも向いていない。性格からしても、とにかく衝突をさける傾向にあった。
それが、今は一人で巨人に立ち向かっている。それが信じられなかった。
気の弱いはずの幼馴染の行動に神楽は驚きと焦燥感に駆り立てられた。
私は、私はどうしたらいい……?
「バカ、いるだけでもいいのよ」冴木に言われた言葉が頭をよぎる。どうしてそばにいるだけでいいのか、神楽には理解できなかったが、その言葉を信じ、彼女は止まらない震えを抱えながら蓮見の方へと足を向けた。
巨人が動く。はち切れんばかり丸太のようなの腕が振り上がり、異様なほど巨大な拳が蓮見に向かい叩き下ろされる。
「うわわっ!?」
蓮見は転がるようにその拳を避けると、巨人の拳はめり込むように床を割る。
「くっ!?」
近寄りすぎた!?
二撃三撃目と、巨人の連打に蓮見は足がもつれそうになるのを必死に堪えながら距離を取る。蓮見は攻撃を避けながら、銃を握りしめ、ジッとその時がくるのを待っていた。
巨人が次に衝撃波を撃ち、圭祐の能力を使う時を……。
その時が、能力の間隙。『バリア』も発動していない瞬間だ。
「ったく……信じてるぞ、千堂……!」
その時、巨人が構えた。胸部を膨張させ、衝撃波を撃つ体勢に入った。発射体勢に入ったにも関わらず、蓮見はその場から逃ずにただ立ち尽くす。
「哲也! あぶない!」
「!?」
神楽の叫びに巨人が標的を彼女に向けた。
神楽!?
蓮見は思わず、銃の引き金を引いた。銃弾は銃口から放たれた直後、間髪入れずに撃ったはずの蓮見の左肩を貫き、彼はその衝撃に倒れ込む。
くっそ、まだ早かった……。
「哲也!?」
蓮見は地面を見つめながら神楽の悲鳴を聞いていた。
衝撃波が『ボイス』であり、その前の予備動作の時には『バリア』か『リフレクション』が展開しているという事はわかっていた。
しかし、神楽を狙われて、無意識のうちに手が動いていた。
「哲也! 哲也!」
駆け寄ろうとする神楽に手を向け、足を止めさせると、彼は巨人を一瞥した。
巨人は蓮見の狙撃に、完全に蓮見の方へ注意を戻していた。
もう、色々、ギリギリだな……。
銃弾はあと三発。興奮と緊張のためか肩の痛みは麻痺している。左肩は動かないが、痛みさえなければ戦うことはできる。
痛みを意識しないように、蓮見は自分から流れた血を見ないように目を背るように巨人を睨んだ。
「!」
「今だ!」
ジリッ。と飛び出した蓮見の体のそばを衝撃波が通過し、僅かに巻き込まれた上着の端は消し飛んだ。
「くっ!」
蓮見はそのまま足を止めずに巨人との間合いをつめた。その距離は十メートルとない。
巨人はすぐさま周囲に瓦礫を集め出した。
……今だ!
蓮見は駆け込みながら三度引き金を引いた。