第百三十九話……燃え上がる炎3
聖の能力も一馬の能力も原則は自分自身を中心にして全方向に展開するものだった。例え、よそ見をしていても能力が展開されている以上弾が届くことはない。
それなのに、何故さっきの神楽の射撃は当たったんだ?
その疑問符に答え何かしらの答えを導き出そうとしたその時、蓮見達の後方で強い光が音もなく爆発した。
溢れた光は意志を持った帯のように通路を渡り、各部屋を満たし、それは蓮見や神楽のいる部屋へも侵入した。帯はやがて糸になり、糸はほどけ花弁のように部屋を舞った。
光の花が舞う中、回復した巨人が立ち上がった。巨人は胸部を大きく膨張させると、衝撃波の発射準備にかかった。
「やばいっ!」
蓮見は一人走り出した。その姿を追い、巨人は体の向きを変えていく。
光の花が舞う中、神楽は茫然としてその光景を見ていた。ふと、その光に手を伸ばす。
「……?」
……!? えっ!? う、うそ、何これ!?
思わず息を飲んだ。
光に触れた瞬間、頭の中に情報が流れ込んでくる。光は聖と夏美だった。
二人は……二人はもういない……。
神楽の頬を涙が伝う。聖も夏美もいなくなった。そしてこの現象に、夏美は鬼崎と沖田姉妹の事を走馬灯のように思い出していた。
自分が今、二人の最後をキャッチしたように、鬼崎や沖田も何かを得ていたに違いない。
それが何なのか、想像できるものをはいくつもない。
どうして……! 私は知ることができなかった!? どうして、私はそのことに気が付かなかった!?
神楽はその場に崩れ落ち、声を上げて泣いた。
神楽は知ることを恐れていた。知れば余計なことまで見なければならない。知ってしまったあとで、それが知らなくてよいことだったということはたくさんある。だから、知ることがないように、目を向けないように、手を触れないように、今までしてきたのだった。
その場に座り込んだ神楽の周りで、光の花が揺らめき、流れ、そして一瞬のうちに消し飛んだ。
巨人の衝撃波に建物が悲鳴を上げる。
「くっ!?」
何とか、避けられた!
蓮見は巨人の注意を引きながら、その衝撃波のタイミングを計り、うまい具合に回避した。とはいえ、危ない橋を渡っていることにはかわりない。
神楽に衝撃が向かないように、それだけを意識しての咄嗟の行動だったが、冷静に考えれば冷や汗が出た。
もう少しで体の一部を持って行かれるところだった。
「神楽! 大丈夫!?」
座り込んでしまっている彼女を気遣い声をかける。しかし、神楽は答えなかった。