第百三十八話……燃え上がる炎2
圭祐の能力だ。とすると次に来るのは……。
浮かび上がった瓦礫がフッと落ちるような動きを見せた瞬間、勢いよく蓮見に向かい発射された。
「や、やっぱり!?」
茜の能力で弾き出された瓦礫が蓮見を襲う。そう思った瞬間、銃声が部屋の中で反響した。
瓦礫は蓮見に到達する前に勢いがついたまま落下すると土煙を上げる。
「きゃっ!?」
「えっ?」
巨人の胸から血が吹き溢れる。
銃声と共に聞こえた悲鳴に蓮見はその方に視線を向けた。巨人の後方に、尻もちをついた神楽の姿。その手には守衛団に標準支給されるハンドガンが握られていた。
神楽は蓮見の視線に気が付くと、慌てて捲れていたスカートを直して睨む。
「か、神楽!?」
「み、見た?」
「えっ? 何を?」
神楽は立ち上がると駆け寄ってくる蓮見に顔を背けながら、手にしたハンドガンのグリップを握りその感触を確かめる。
聖に一つを投げ渡したあと、逃げた隊員達が落としていったものを拾い、吉田に貰った弾を込めたのだ。
読み取った吉田の記憶の中では片手で扱っているイメージだったので、そのまま右手だけで撃ってみたが思っていた以上の反動に尻もちをついてしまった。その反動で手がしびれてしまっている。
両手で構えないと無理か……。
神楽の『リーディング』は相手の心を読むと同時に相手の動きや技術も覚えることができる。筋力や体力を必要としないようなものであれば問題ないが、筋力が無ければその形を維持できないものの時にはこんな結果になってしまう。
「神楽! 大丈夫だった!?」
蓮見は神楽の両肩を掴み声を上げる。
「オ、オーバーね、尻もちをついたぐらいで。大丈夫よ、応援に来たわ」
神楽は蓮見の手を払おうと手を出したが、払えずに困惑した様子で「ちょっと、痛いんだけど」とだけ言った。
蓮見は神楽が手袋をしていないことに気が付き、察したように手を離す。
彼女がもし蓮見にその手で触れれば、蓮見の心の中をのぞくことになってしまう。触れた時のコントロールはできないため、彼女なりに気をつかい彼に触れないようにしたのだ。
いくら幼馴染であっても心の中まで勝手に知っていいはずがない、というのが彼女の考えだった。
蓮見は神楽にケガがないことを確認したあと、撃たれた巨人に目を向けた。
巨人は痛みに悶えているのも関わらずその傷口はまるで血液を沸騰させたかのように泡立ち、みるみるうちに塞がっていっている。
「再生している!?」
「鈴のヒーリングに似ているわね」
神楽はもう一度巨人に向かい両手で銃を構えた。
「待って神楽!」
「大丈夫、これは対能力者用の弾が入っているのよ、さっきだって見たでしょう? 『バリア』も『リフレクション』も発動しなかったじゃない」
神楽は蓮見の制止も聞かず、再度引き金に指をかけた。その瞬間、蓮見は彼女に飛びつき彼女を押し倒した。
「ちょ、ちょっと、哲也!?」
その瞬間。発射された銃弾が巨人の体に到達する一メートルほどの手前の空中で一瞬だけ弾速を鈍らせると、天井に軌道を変えて、点灯していない照明を割った。
「……!? 今の……?」
「弾かれた、一馬の『リフレクション』だ」
巨人がまだ回復しきっていなかったために、うまくコントロールされていなかったが、万全の状態ならばわからなかった。
「でも、さっきは……」
信じられないと言った顔で巨人を見る神楽をよそに蓮見は一人立ち上がる。
確かにおかしい……。