第百三十五話……イージス3
「……さすがだ」
聖は夏美の姿にニヤリと笑みを浮かべた。
巨人は飛び出した夏美にいち早く反応したが、聖を振り下ろした瞬間で自分自身の重心が戻らず、さらに聖の体の重みも加わり動きが止まった。
夏美は引き金を引いた。放たれた銃弾は巨人の左肩から右肩側に貫通する。
……当たった!
銃弾は弾かれず、防がれず、避けられず、巨人を貫いた。
「手を止めるな、夏美!」
巨人の悲鳴。聖はかまわず叫んだ。
「うん!」
夏美は夢中で引き金を引き続けた。
狭い部屋の中に巨人の慟哭と赤い雨が降る。
雨は聖と夏美と巨人を濡らし、壁や床を染めた。
巨人は立て続けに銃弾を浴びせられ、反抗をする間もなくその場に倒れ込んだ。
……カチッ。
夏美は打ち切った銃を構えたまま、震えた手で何度か引き金を引いていた。
「はぁ……はぁ……」
倒れ込む巨人から離れ、聖は夏美に近づくとそっと彼女の手から銃を取り上げた。
「聖……」
「よくやったな夏美、俺達の勝ちだ」
聖は震える夏美の顔を胸に抱いた。満身創痍の彼女に、いくら作戦とはいえ、無茶をさせてしまったと聖は少なからず後悔する。
しかし、ああでもしなければ、おそらく仕留めることはできなかった。
……それに。
こんな化け物が少なくともあと二体。見えないところでは量産もされているのだとしたら、ゾッとする。
「うん……」
「さて、すぐにでも蓮見か風見のもとに向かうとするか……」
聖が踵を返したその時、彼はその異変に気が付いた。
「……!?」
振り返った瞬間、その場所を見た瞬間だった。そこに倒れていたはずの巨人の姿がない。
「聖!」
「!?」
天井にへばりつくように潜んだ巨人が落下と共に鞭先で聖の肩を貫いた。完全に油断していために『バリア』が遅れた。
見れば、巨人の銃痕から血液が沸騰するかのように泡立ち、みるみる内に傷が塞がっていっている。
こいつ……!? こいつのこの能力は……。
「す、鈴の!?」
「ヒーリングか……!?」
傷が回復していっているとはいえ、体力が回復するわけではない。巨人の一撃にも今までのような力はなく、ジリジリと鞭を聖の中へと侵入させるだけだった。しかしそれでもその力は強く、巨人の血によって染まった赤い床は、今度は聖の血により上塗りされる。
巨人はさらに吠えると自らの両腕に蒼い炎を纏わせた。
「ぐああっ!」
「聖! 聖!?」
「ぐっ!」
蓮見の『ブルーフレア』もかよ。
聖の刺された傷口から肉が焼ける。引き抜こうとしたが、聖はそのまま壁に押さえつけられ鞭先は聖の肩を突き抜けた先で壁に刺さった。完全な串刺し状態に、聖は意識が遠のきながら虚ろに自問自答を繰り返した。
どうする……!? 武器はない、手札も尽きている……。
倒すことができなくても、せめて蓮見や風見のもとにこいつを行かせない方法を考えなければ……。
「夏美……逃げろ」
「えっ!?」
戸惑う夏美に聖は声を絞り出した。
その時、巨人が異変に気が付いた。巨人は聖から腕を抜き離れようとしたが、逆に聖はその腕を掴んで離さない。
「……逃がさねえよ」
「聖……!」
ゾワリと鳥肌が立った。
夏美はそれが幻か何かなのかと思った。
聖の体が不気味に光を放ち、聖と巨人を包むようにガラスのように輝くドーム状の膜がいつの間にか存在していた。
……これって……。
魅せられてしまうほどに美しいその膜が何なのか、夏美は直感的に理解した。これは、いつもなら見えないはずの聖の『バリア』だ。