第百三十四話……イージス2
「夏美、銃はお前が撃て」
「えっ、ええっ!?」
突然の聖の提案に夏美は思わず声を上げた。
「俺が囮になる、お前が撃つんだ」
「で、でも」
夏美も理屈ではわかっていても、それをいざ実行に移すとなると意味合いは異なってくる。言うほど簡単なものでもはない。
それに、これはあくまで不意打ちである。チャンスは一度しかない。失敗すれば、巨人の警戒心は強固になり、夏美にまでその敵意を向けてくるだろう。
自分の一撃が囮となる聖や自分の運命を左右するとなると思うとますますうまくいかないような気がしてしまう。夏美は震えた瞳で聖を見上げると、彼は彼女の頭を撫でた。されたことのない行為に夏美の思考は混乱する。
「聖……!?」
「なんて顔してるんだ。安心しろ、お前は俺が守る。お前は俺だけを見ていればいい。わかったな?」
聖だけを?
「あっ、聖、来る!?」
「ああ!」
聖は夏美に銃を押し付けるとわずかに部屋の外に見える巨人に身構えた。次の瞬間、巨人は急加速で聖のもとへと跳ね上がる。
巨人は通路から一瞬にして聖達のいる部屋へと入室した。そのあまりの速度に二人は巨人が瞬間移動でもしたのかと思った。
聖が前に出ると夏美は聖から漂う彼の香りに動かされるように物陰へ隠れ潜んだ。
室内は巨人のサイズを考えればかなり狭い。腕を振り上げれば鞭の先端は天井にあたり、攻撃に威力を持たせるほどに助走するほどに部屋は広くない。
聖、聖……!?
夏美は物陰に潜みながら聖の匂いを追い続けた。すると、いつの間にか自分のすぐ横に彼がいるような気になり、それが何時しか自分と重なるような錯覚を受けた。
聖の思考が流れ込んでくる。
わかる、たぶん……もうすぐだ……。
物陰に潜みながら、聖と巨人の姿を見ていなくとも、やれるような気がしてきた。
心は落ち着きを取戻し、夏美は不意に聖に頭を撫でられたことを思い出し顔を赤くする。
「聖……」
……うん。やれる気がしてきた。
巨人は戦いの場として不自由なこの場に業を煮やし、聖の体に鞭を巻き付けると、長身の聖を体ごと振り回す。
「!?」
俺を軽々と? こいつ……。
巨人は全身をバネのようにしならせ、聖を床へと叩き付けた。
「ぐはっ!?」
聖が叩きつけられたその瞬間だった。
物陰から飛び出した夏美は巨人に向かい、引き金を引いた。
……夏美。