第百三十三話……イージス1
「ちっ!」
通路を駆け出した聖は白い巨人を引きつけながら、どこか適当な場所はないか視界を巡らせていた。
「聖、上から来る!」
「おう!」
となりを走る夏美の声に反応して聖は頭上に意識を向けた。その行動に僅かに遅れて瞬息の鞭撃が襲う。巨人は体ごと弾かれ、落下と同時に加速しまた姿をくらませた。
「さっきより、威力は落ちているな……」
「うん」
通路に逃げ込んだ事により、巨人は最大限に加速するだけの場所がなくなっていた。しかも、通路であるため動きそのものが単調になってきている。
こうなれば、夏美のナビゲートで展開される聖の『バリア』を破ることはできない。
しかし、同時に聖側も巨人を倒す手段がなかった。
この銃を当てられたら……。
おそらく状況はマシになるはず。
そのためには何とかして白い巨人の動きを制限しなければならない。でなければ、巨人は弾丸を容易に避けてしまう。
「聖、ここ! ここなら!」
「よしっ!」
夏美の呼びかけに聖は通路奥の一部屋に飛び込んだ。その部屋は元は隔離実験室だったのか、コントロールルームと強化ガラスが張られた別室がついていた。
今まで見てきた中では、一番狭い……。
「ここで勝負をかけるか」
二人は顔を見合わせるとお互いに頷き合った。すぐにでもこの巨人を倒し、蓮見や風見を助けにいかねばならない。
「夏美、銃はお前が撃て」
「えっ、ええっ!?」
突然の聖の提案に夏美は思わず声を上げた。
「ど、どうして!? わ、私、撃ったことないよ!」
「バカ、俺だって撃った事ねえよ、さっき撃ったのが初めてだ」
聖はこの部屋にくるまでにすでに三発撃っていたが、どれも外している。聖の腕の問題ではない。巨人の能力のせいだった。
「あれはおそらく直也の『ストップモーション』だ。弾丸を見て避けているんだ」
実際、白い巨人に目はなかったが、聖は今までの巨人の行動からそう判断していた。
宮沼の『フィーリング』で俺達の事を察知している……だが、どうにかして視覚でも見ているはずだ。そう考えた。
聖の記憶では宮沼の能力は周囲の生き物の気配を察知する能力だった。生き物ではない単なる物体には適応していない。それなのに巨人はこの入り組んだ障害物の多い通路を難なく移動している。目は無いが見ているのだ。
この場合、透視能力とかか? けどそんな奴いなかったけどな……?
沸き起こった疑問を頭の隅に追いやり、聖は言葉を続けた。
「前に直也が言っていたのを思い出したんだ。自分の力は動体視力の延長みたいなものだ、目で見て判断しているんだって、言っていた」
「それと、私が撃つのと何が関係あるの?」
「あの化け物は俺が銃を撃つ所を三回見ている。あいつは俺が銃を持っていると思っている……」
聖が巨人の攻撃を警戒しているように、巨人も聖が銃を持っている警戒している。
ならば、その銃を持つ人間が変わり、しかも死角から撃ったとしたら……。




