第百三十一話……真実の欠片3
松原? 所長?
「それどういう事?」
戸惑う不破、スクリーンのランプも異様な点滅を繰り返している。
「最初から、保守も推進も存在しなかった……そういう事です」
田谷は六番目のスクリーンに同意を求めるように肩をすくめて見せる。
「……」
六番は何も答えない。
「保守も推進もないって?」
「そうです。なぜなら、保守派の十二人も推進派の十二人も、同じ人間なのですから。そうですよね? 松原所長、いえ、ここでは松原博士、と言った方がいいですかね?」
「!?」
どいうこと?
不破は先ほどの暗示が効いているのか、まだ頭がうまく働いていない感じがした。
松原所長は異能力研究所所長で、襲撃の時に命を落としたはずだ。
それが何故? しかも保守派の施設ですべてを破壊してきたではないか。
不破はわけがわからず視線をスクリーンと田谷の間を行ったり来たりさせる。
「貴様、何を知っている?」
六番の問い。その声には怒気が色濃い。
「知っていますよ。そう、私の足元に、あなた達の命とも言えるメインコンピューターがあるという事ぐらいわね」
「!」
不敵に笑みを浮かべる田谷はもったいぶったように言葉を続けた。
「私はあなた達に消えてもらいたいのです。もうわかりますよね? 皆さん?」
「や、やめろ!」
「そんな事をすれば!」
「我々は!?」
「せっかくクリエの実用化にも成功したのに!」
「成功したのに?」
侮蔑、嘲笑、悲哀の入りまじる嘆息をこぼし、田谷は円陣の中央でホルダーから銃を抜き放つ。そしてそれをおもむろに自分の足元に向けた。
「成功して、それでどうするつもりだったんですか?」
「……! ……? ……」
今まで騒ぎ立てていたスクリーン達が水をうったように静まり返る。
「金? 名声? 地位? 権力? あなた達には必要がないものでしょう? そんなものをもっていても意味がない」
田谷は腕をだらりと下げ、そのまま銃の引き金を引いた。
「……!?」
発砲音と共に、金属製の床が弾け、抉られる。田谷の手は休むことなく引き金を引き続けた。
「やめろ!」
「やめて!」
「やめえてくれ!」
「消えたくない!」
「死にた……!」
しかし田谷の手は止まることなく、やがて引き金を引いても何の反応もなくなった。
銃弾は撃ち尽くされたのだ。
部屋には硝煙と静寂が立ち込めた。
「た、田谷……!」
不破はやっと声が出たような気がした。
「これは、一体どういうことなの!?」
「見てのとおりです。仕事を終えたのですよ」
声を荒げる彼女に彼は六番のスクリーンのそばまで歩いて行くと、それを背もたれにして腰かける。胸ポケットから煙草を取り出し、口にくわえるとライターで先端に火をつけた。
「田谷!」
「……そう焦らないで。さて、まずは何から説明いたしましょうか……」
田谷は白い煙を吐きながら頭の中で言葉を選び始めていた。