第百二十七話……猫の姉妹
空に送りだされた冴木達は動きを見せないタイプⅠの通り過ぎ深部へと向かう。
研究所奥へと続く通路は表に近い部分はずいぶん荒廃していたが、奥へと進むと所々修繕された部分が見受けられた。まるでつい最近まで誰かに使われていたかのように。
冴木と深津を戦闘にユキとサヤが続く。サヤは四つ這いで器用に本物の猫のように走りながら先ほどから後ろが気になってしかたがなかった。「冴木と一緒にいくんだ」そう空に言われたから、ついてきてはいるものの、本当は空のそばにいたかった。
「にゃあ?」
「だ、大丈夫だよ!」
前を走るユキに声を掛けられサヤは少し強がって言葉を返した。
真っ白な毛並と長いふわふわのしっぽを持つ姉は少し気難しい所もあるがサヤの自慢だった。小さい頃から一緒で、一緒に音楽を聞いたり、遊んだり、ご飯を食べたりした。姉の事は信用している。
頭がよくない自分と違い、姉は頭がよく切れる事もわかっている。
その姉が、空から離れ、冴木について行こうとしているのだからきっとその判断は間違ってはいない。
本当は姉だって、空のそばにいたかったはずだった。サヤ自身も空の事は好きだったが、ユキはサヤとは少し違った意味で空の事を慕っているように彼女には思えた。
だから、自分よりももっと空のそばにいたいと思っているに違いないと、サヤは思っていた。
「ずいぶん枝分かれしているのね?」
分かれ道で立ち止まる。幾度目かの分かれ道だった。
「侵入者を防ぐためにわざとこういう造りにしているのよ」
深津は息を切らしながら、辺りを見回す。彼女は巨人から離れたせいか、幾分落ち着きを取り戻していた。息は切らしているがその目には冷静さが戻っている。
「たぶん……こっちね」
そう言って深津は足元に落ちていた小石で通路の内壁に矢印型に傷をつける。その音にサヤとユキは思わず耳を両手で塞いだ。
「どうしてわかるんです?」
「この第六研究所は君達がいた研究所と似た設計になっているの。方位だけ逆向きね」
深津の説明に冴木は改めて周囲を見回した。そう言われてみれば、確かに今来た道なども意識して見れば確かにそう見える。
案内図のようなものがないため、正確な事はわからないが、深津の示す方向に進めば、あの異能力研究所で言う所の実験体居住区側に抜ける。
「クリエの大元になるものを保管しておくなら、それなりの設備が必要なはず、少なくともかなりひらけた空間が必要なはず」
なるほど……。この方向に進み、ひらけた場所と言えば、あの場所に出るはずだ。
「Cブロックね」
冴木達はまた走り出した。