第百二十六話……神楽の決意
駆け出した蓮見を見ながら、神楽は自分はどうしたらいいのか迷っていた。
いつの間にか距離の縮まっていた聖と夏美は鞭の巨人に向かい、風見空は、彼の呼びかけに残ったわずかな守衛団隊員達と共にタイプⅠの元へ向かっている。それぞれが巨人を引きつけているなか冴木達は研究所の奥へと走って行った。
神楽は一瞬、自分も冴木のあとを追うかどうか考えたが、冴木に言われた言葉が気がかりで判断を決めかねていた。
哲也のそばにいればいい?
でも、それにどんな意味があるのかがわからない。自分の能力は戦うには不向きで、戦力になりそうもない。蓮見のことをサポートしようと思っても、その方法がわからない。
「もうっ!」
神楽は地団駄を踏んだ。
夏美も冴木も、鬼崎だって、わかっている風なのになぜ教えてくれないのか、神楽は不満だった。
「お、おい、君っ!」
「えっ?」
神楽はその声に振り返る。神楽を呼んだのは吉田だった。吉田は二回目の衝撃波の壁の瓦解に巻き込まれ半身を挟まれ身動きがとれなくなっていたのだった。
その瓦礫はとても神楽一人で何とかなるようなシロモノではない。彼の体を瓦礫から引きぬいて救助することも難しいだろう。
「あの、私……」
「君達はあの白いのが何なのか知っているのか?」
「えっ?」
吉田に言われ、神楽少し戸惑きながら研究所を抜け出した事やあの巨人が自分達の力を持っているという事など、ここまで来た理由を手短に説明した。
「……そんな事が?」
俄かに話は信じがたい話に吉田は顔を引きつらせる。しかし、彼の中で何か思い当るふしがあったのか、とたんに表情を曇らせた。
あの時の、コンテナ……か。俺達はとんでもないなものを運ばされていたってわけか。
「……?」
険しい表情の吉田に神楽は戸惑いながら、彼の自由を奪っている瓦礫を何とかしようと残骸に手をかけた。
「君、やめなさい、君一人で何とかなるものでもない」
「でも……」
「それよりもこれをあいつに届けてくれ」
そう言って、彼はハンドガンと五発の弾丸を差し出した。
「これは?」
「弾は込めてある。対能力者用の特殊高速弾だ。生憎と銃は一丁しかないんだ。ただ、弾の規格は共通だから、部下が装備しているハンドガンの弾を入れ替えれば撃てる」
「これを私達に?」
「そうだ、あの塚本聖とあそこで戦っている君の彼氏にな」
吉田は聖を見たあと視線を蓮見に移す。その視線の動きに、神楽は弾かれたように手を振った。
「ちょ、か、彼氏とかじゃないです!」
「そうか、俺にはそう見えたんだがな。とにかく届けてくれ、何もないよりはマシなはずだから」
「は、はい!」
ハンドガンにはすでに弾が込められている。しかし、もらった弾丸を別の銃に装填する方法がわからない。
こんな状況だもん、四の五の言ってらんないよな……。
神楽はそう思い、一度蓮見を見た。
あの蓮見が、あんな……。
あんなに頑張っているんだもん。私だって!
「ごめんなさい、少しだけ」
神楽は素手で吉田の肩に触れた。
「……?」
神楽の『リーディング』により吉田の情報が頭の中に流れ込んでくる。
この人、聖の事を? ううん、今はそんな事はどうでもいい。今は……。
「えっと、こうね」
神楽は立ち上がると吉田から託されたハンドガンでもう一度復習をした。マガジンを抜き、装填、安全装置の解除とロック。
神楽のよく訓練された兵士のような手つきに吉田は目を丸くした。その手の動きはまるで自分が銃を扱う時の動作のようだった。
「……よし、大丈夫できそう」
その時、タイプⅡが聖に向かい加速した。
「聖!」
神楽は聖に向かいハンドガンを投げ渡すと、残った五発の弾丸を握りしめ、蓮見の元へと駆け出した。