第百二十五話……白い迫撃2
蓮見に注意を向け始めたタイプⅡに聖は殴りかかった。『バリア』を纏った聖の拳はよそ見をしていた巨人の頭部をえぐり抜く。
「ちっ!」
聖は舌打ちした。女性の腿ほどの太さがある巨人の首はの筋肉は、強靱でしなやかだった。むしろ、聖に殴られたその勢いをバネにして鞭を唸らせた。
「くっ!」
巨人の一撃も聖の『バリア』を突破することはできない。
巨人と対峙する聖は、互いにダメージを与える事ができないでいた。救いなのは、この巨人が『バリア』を持っていないという事ぐらいだった。
防御は問題ないが攻撃は通じない。ならばどちかの気力がなくなるまでの持久戦だ。
こんな化け物と?
ちっ……。確かに蓮見の考えは間違っちゃいねぇ、あの衝撃波を防げない以上、こいつを何とかしなきゃならない。
こいつを倒して、蓮見や風見の方に回る必要がある……。だが、そう簡単には勝負をつけさせてもらえそうにない。
聖は歯噛みした。
それはタイプⅡも同じだったのか、思うように攻撃を通せずに攻撃自体粗が出始めた。
化け物のくせにイラついてやがるのか?
不意にタイプⅡは姿が霞むほどに加速した。
「こいつ!?」
こんなに速く動けるのか!? これも能力か? 平田の能力も美奈の能力もこんな要素はなかったぞ!?
その動きは全身をバネのように使う猫科の動物を思い起させる。速度は空気を裂き、鞭を硬化させる。
「どこだ!?」
ランダムに動き回るタイプⅡに聖は完全にその姿を見失った。
「聖! 左から来るよ!」
「!?」
そばにいた夏美の声に聖は咄嗟に左に意識を集中させた。その瞬間、聖の目の前に巨人の鞭が現れた。聖からわずか五センチ。『バリア』を肉迫する。
今のは……。
夏美の声がなければ、その方向に意識を向けなければあぶなかった。加速したタイプⅡの攻撃は『バリア』突破する勢いだった。
一撃離脱で巨人は再び加速する。
「夏美、今の?」
夏美は得意気に笑みを浮かべた。
そうか、匂いか。
いくら速度はあっても匂いを消すことはできない。来る方向さえわかっていれば、あの加速からの攻撃も何とかしのぐことができる。
問題は攻撃だ。攻撃手段さえあれば……。
「聖!」
神楽が聖に向かい何を投げた。彼はそれを受け取るとまじまじと見つめた。
「?」
守衛団のハンドガンだった。日本の旧警察組織で使われていたものをベースに作られ、守衛団の基本装備として支給されているものだ。聖もこの銃の威力は知っている。実験の時に撃たれた事があった。
「こいつじゃ……」
「それには特殊高速弾が装填されてる! 威力は桁違いだ!」
その時、吉田が叫んだ。
「……!」
「聖! 正面から来る!」
夏美の声に聖は銃を構え、『バリア』を全開に展開して引き金を引いた。