第百二十二話……白い使者2
なるほど……。
畑中は研究所上層部分からその光景を見た。
まず初めにカプセルから飛び出したのは、近距離戦闘用に開発されたタイプⅡのアンデレ。能力の制限はされ、すべての能力を使うことはできないが、その分身体的な能力に特化している。
肩に特徴のあるタイプⅢはフィリップ。遠距離型。言わば砲台だ。やはり能力は制限され、一部の能力に特化している。
「しかし……」
フィリップが見せたあの衝撃波、一体、誰の能力なのかしら?
畑中は疑問に思った。
能力を極限にまで引き出したというのは理解できるが、資料を見るかぎりにおいては子供達のデータにあの衝撃波を連想させる能力は存在しなかった。
それに、あの子……。
畑中はカプセルの中を注視する。中では、扉が開いたにも関わらず活動を始めようとしないシモンの姿があった。
調整不足……かしらね?
クリエ自体はこちらから信号を送ることでコントロールが可能であるが、実験体である岡島達と交戦したあとのシモンの変化は気にはなっていた。
そう言えば、あの子の黒い模様……。
畑中はふと気がつく。
体全体がペンキでも塗ったかのように白いクリエであるが、今ここにいるクリエはもちろん、どのクリエにも墨でも垂らしたかのように不規則な黒い模様があった。
アンデレは右腿に、フィリップは背中、シモンは胸の中央。その模様は黒いというだけで他に共通点のようなものはなく、ロールシャッハテストの絵のように見方によっては色々なものを想起させた。
同じタイプであれば個体差の少ない彼らの数少ない特徴と言うべきものだ。それは彼らを生成する過程でどうしてもできるもので、その模様をコントロールすることは現段階ではできず、また生成後変化をすることもない。
畑中は記憶をたどる。
シモンの模様……あんなだったかしら?
黒い部分が大きくなっているような……?
「おっ?」
今まで動きを見せなかったシモンが何かに気が付いたようにムクッと起き上がり、カプセルの外へと這い出た。
あらあら、急にやる気になった?
畑中は興味深げに腕を組み、その光景を見下ろしていた。
その様子は先ほどまでと明らかに違う。まるで何かを待っていたかのような、そんな動きだった。
彼女が感じたその疑問にはすぐに答えが出た。この現場に飛び込んできた蓮見と神楽の姿がそれだ。彼女は思わず感嘆した。
「さあ、シモン……どうするの?」
「これは……!?」
「何あの気持ち悪いの奴は!?」
そのフロアに飛び込んできた蓮見と神楽は、その状況を理解するのに数秒かかった。というよりも数秒の時間しか与えてもらえなかった。新たな獲物を見つけたアンデレとフィリップは標的を蓮見と神楽に移したからだ。
フィリップの胸部が膨張する。その間にアンデレが獣のように疾走し、間合いを詰めていく。
「……!?」
蓮見はアンデレの動きに咄嗟に神楽を庇うように前に出たが、あの巨人相手にどう対応したらいいのかわからない。
右? 左? 避けれらない! 防御? 腕? 背中? 神楽を守らなきゃ!
軽業師のような身のこなしで空中で体を独楽のように回転させながら鞭が唸る。
ダメだ! くらう!?
そう思った瞬間、アンデレは壁のようなものに衝突したように床へと落下する。
「……!?」
「間に合ったか。あぶなかったな二人とも」
「聖!?」
「夏美!」
蓮見と神楽は自分達の背後に駆け付けていた二人の姿に歓喜の声を上げた。
その声に聖はいつもの調子で不敵に笑い、その横で夏美が二人との再会に涙を浮かべた。「よかった、二人とも無事だったんだね」と言おうとした瞬間、四人に向かい吉田の怒声声が飛ぶ。
「あぶない! 避けろ!」
「!?」
その声に驚異的な反応速度で聖の直感が働いた。
「みんな横に飛べ!」
「ええ!?」
聖の声に言われるまま夢中で三人は彼のあとについて飛ぶ。もっとも反応が早かったのは夏美、それから蓮見、神楽と続く。
神楽が飛んだ直後、彼女を追うように向きを変えたフィリップの衝撃波がこの彼女のスカートをかすめた。その衝撃波の軌道上にはまた空洞が出来上がった。
……?
「な、なんだ今の!?」
蓮見はドッと冷や汗を流す。驚く間もなく四人にアンデレが強襲する。その攻撃に聖と夏美は左に蓮見は神楽の手をひき右に避け、四人は二手に別れた。
夏美?
神楽は彼女の変化に首を傾げた。
聖と夏美ってあんなに息が合ってたっけ?
そしてもう一組がこのフロアに到着した。