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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第六章 白い迫撃
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第百二十一話……白い使者1

「……!」


 カプセルの扉が開いた瞬間、白い影が飛び出し、着地と同時にその巨躯の重みで床を割った。猫背に前傾した体躯からはバランスを欠くような長い両腕が伸び肘から先はダラリと垂れた先に指や手、間接は存在せず、白い肉の鞭だった。


「ひっ!?」


 唸りを上げる鞭は構えた銃器ごと隊員の腕をへし折り、彼ははじき出されたゴムまりのように吹き飛んだ。飛んだ先に壁があったためにそこにめり込むように着壁し、絶命した。


「な、なんだ、あいつは!?」


「化け物!?」


 両腕が鞭の白い巨人は、小刻みに触覚を揺らしながら声のする方へと向き直った。


「何をしている! 撃て! 奴を止めろ!」


 吉田の命令に一斉に銃弾がばら撒かれた。しかし、それに構うことなく巨人は疾駆した。銃弾の豪雨の中をかすりもせずに隊員達に向かう。


「どうなってる!?」


 吉田は謎の巨人の動きに瞠目した。

 防御をするでも逃げるでもない。

 弾幕の中を無傷で向かってくるのだ。それは放たれた弾丸に向かいながら、回避をしつつ進行しているのだ。

 まるで、打ち出された無数の銃弾が見えているかのように。

 巨人はバネのように全身をしならせ、一度に数人の男達を薙ぎ払い、その骨を砕き、肉を断つ音が耳をついた。


「くっ!」


 吉田はハッとして飛来したカプセルを見た。すると、そこにはもう一体、白い巨人がカプセルから姿を現していた。

 その動きは鞭の巨人と比べると緩慢でゆっくりと重そうに歩いている。

 な、なんだ、また別の……?

 両腕が鞭の俊敏な巨人とは違い、その巨人は体幹が横に広く、厚みのある肩はから伸びる太く長い腕にはしっかりと指もある。

 体のバランスからすればゴリラのような体躯で、常に手を地面について支えていなければならなかった。何よりも特徴的なのは、その巨人の肩だった。

 人間で言えば、ちょうど肩関節の所が空洞になり、円形に空いたその部分からは向こう側が通して見る事が出来た。 

 両肩に穴のある巨人は手をつくと、息を吸い込むかのように胸部が拡大していく。

 一回り、二回り、胸部だけが異常に肥大し、ただでさえ巨大な白い巨人がさらに大きくなっていく。

 !?


「散開しろ!」


 吉田は直感的に叫び、飛び退いた。

 次の瞬間、破裂するような衝撃波が吉田をかすめ、研究所の分厚い壁に円形の穴を空けた。その軌道上には逃げ遅れた隊員達の足だけが残っていた。


「……こんな事が……」


 一体何なんだ……?

 吉田は愕然として残された足と生き残った隊員達を見ていた。

 撤退するしかない。

 軍事的な訓練や集団的な戦闘訓練を行ってきた守衛団であっても、化け物と戦うことは想定していない。それもこんな圧倒的戦力差では……。

 そう頭の中ではわかっていても喉をつぶされたかのように声がでない。無傷なはずの足には力が入らず、誰が見てもわかるほどに震えている。それは生き残った数名の隊員達も同じだった。逃げなければならないのはわかっているのに、竦んだ体は動かない。


「……?」

 

 吉田は働かなくなった思考の片隅でこちらに向かい走ってくる二つの足音を耳にしていた。


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