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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第六章 白い迫撃
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第百十六話……目的地4

「むむぅ」


 抱っこされるように空の胸にしがみつくサヤは不機嫌そうにふくれていた。その不満を表すように抱きつくと同時にしっぽでぱしぱしと彼の事を叩いている。


「サヤ、悪かったよ。謝ってるだろ?」


「ふんっ」


 サヤは起きた時に冴木と空がいなかったことが気にいらなかったらしく先ほどからこの調子だ。空にしがみついてはいるが、顔をそむけ目を合わそうとしない。

 ユキも冴木と空の間に割ってはいるように丸くなっている。


「風見君、ずいぶんモテてるのね」


 空達によって連れてこられた深津はそこにいたメンバーを見ながら言った。


「そういうんじゃないんですけどね」


「ところで、深津博士、さっきの話……」


「ええ、そうね、まずはその話ね」


 深津は冴木に促され、静かに語り始めた。

 冴木と空が研究所へと向かう深津を捕えようとした時、彼女は空達に協力を求めてきたのだった。はじめは疑いの目を向けていた二人であったが、彼女の必死の訴えにここまで案内する決意をした。

 冴木が簡単な身体検査をしたが、武器などを隠し持っているわけでもなく。わずかな荷物の中にも特に怪しいものは見られなかった。


「研究所が襲われた事は知っている?」


「ええ、ここに来るまで守衛団の人に聞きました。上村さんの話では、生物兵器の実戦テストだって」


「……ええ、そうよ」


 沈痛な面持ちの深津はその感情を表にこぼれ出ないように抑え込みながら、もっていた端末を操作する。映し出された画像を自分では見ないようにしながら、空達の方に向けた。


「……!?」


「これは!?」


「これが生物兵器、君達のDNAを使い造られたものよ……」


 白い皮膚に墨でも垂らしたかのような不規則な模様のある巨人が映し出されている。画像で見る限り、二メートルから三メートルの間くらいか。丸太のような腕と脚。白く厚い皮膚は巨人の強靱な筋肉ををやっと抑え込むかのようにパンパンに張っていた。


「これが私達のDNAで……?」


「名前はクリエ、使者を意味するクーリエを縮めて呼んでいるみたい」


 そして、現在確認されている能力者の能力のすべてを一体で使うことができるというものだった。


「能力のすべて……?」


「ええ、でも風見君のはまだ確認されていないから、それは含まれていないわ」


 確かに上村もそんな風に言っていたと思い出す。しかし、こうして画像や実際のデータを見せられると何と言ったらいいのか言葉が見当たらなかった。その異様な容姿には特に。

 空はてっきりもっと人のような姿をしているか、もしくは軍用犬のようなものなのかとイメージしていたのだが、これでは全くの新生物である。 

 冴木や千堂らのDNAが使われ、作られたこの生物がなぜこのように異形なものなのか空には疑問だった。だが、言えることは、この様子では例え能力を使わなかったとしても充分に白兵戦ができそうだという事だ。


「まさか、私達の研究がこんな事に使われているなんて思わなくて……それでも、山崎先輩やみんなも……」


 深津はうつむき、声を震わせた。

 研究者はすべてこの事実を知っていると上村は思っていたようだったが、実際にはそうではなかったようだ。


「深津博士はなぜあそこへ?」


「……私は……できれば、君達に協力させてもらいたい。できれば、この手で私が携わった研究を破棄したいの」


 その時、空に抱っこされる形でしがみついていたサヤの耳がピクンッと跳ね上がる。同時にユキも顔を上げた。


「どうした、サヤ?」


「何か来るよ」


「みゃあ!」


 ユキが一声鳴くと、彼女はまっすぐにその方向に視線を向けた。

 その視線の先には大型輸送機が一機。


「……あれって?」


「あれは、ナイツの輸送機……」


 顔を上げた彼女の顔色はよくなかった。


「深津博士?」


「間違いない……」


 畑中のもとから逃げ出した時に見た記憶がある。ここにあの輸送機が向かっているということは、彼女が来ている可能性が高い。

 深津は脳裏によぎる巨人の影を振り切ろうと自分の体をしっかりと抱きしめ、湧き上がる震えを奥歯でかみ殺した。 


「あれは第六研究所へと向かっているはず」


「……」


 空は冴木と顔を見合わせた。


「いきましょう」 


 冴木の言葉に、空もくっついていたサヤを引き離して立ち上がる。


「空……」


「サヤ、いくぞ」


「う、うん」


 空はサヤの不安げに見上げるサヤの頭にぽんっと手を乗せると「大丈夫だよ、もうすぐ終わるさ」と言って安心させるために笑ってみせた。


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