第百十五話……目的地3
夏美と聖が研究所へと向かいしばらく経った頃、同じ場所に、蓮見と神楽の姿があった。
「あれが第六研でしょ?」
「みたいだね」
「ああ、やっとついた、もう足が棒だよ……」
神楽は思わずその場に座り込みそうになった。車を失ってからというもの歩き通しだった。蓮見は他に仲間がいないか視界を巡らせたが、それらしき人影も印のようなものも見当たらない。
すでに終わったのか、それともまだなのか、どちらにしろ確認しなければならないだろう。
蓮見は疲労の色が見える神楽に目を向けた。
千堂と別れ、さらに静香と別れたあとに仮眠をとったのだが、彼女はあまり眠れていないようだった。
「神楽、少しここで休んでいこうか」
「はあ? 何言ってんの。目的地はもう目と鼻の先よ、一気に行って一気に解決! 終わったら弥生達を迎えに行くわ」
蓮見の提案に強がる神楽は、疲労を隠すように胸を張ると、鼻息荒く言うと研究所へと向かい始めた。
「神楽、ちょっと……」
「もう、ぐずぐずしないでよね! 早くいくよ哲也!」
……大丈夫かな。
こんな時の神楽は言う事を聞かないという事を彼はよく知っていた。黙ってついていくしかない。
蓮見は、できればすべてが終わっていてほしかった。その確認だけためだけに第六研究所に向かっているのだと信じたかった。
出発の時に宮沼達が話し合っていた事を思い出していた。すべてが終わったら、ここで藤本だったか、岡島だったが沖田姉妹に告白するような話をしていた事だ。
もちろん、本当にそんな事をするかどうかわからない。脱走計画の緊張感からの悪ノリで言ったのかもしれない。
しかし、もし本当にこれが成功したら、蓮見は神楽に自分に思いを伝えようと密かに思い始めていた。
ちぇっ、そうなったら、宮沼達の思う壺かな……?
蓮見は神楽の背中を見ながら苦笑いする。
彼が神楽に思いを寄せている事は、千堂はもちろん宮沼達や沖田、日倉も、ませた茜も美奈も気が付いていた。ただ一人、神楽だけがその思い気が付いていない。
彼女は自分が素手で触れさえすれば、触れた相手の心を読み知ることができる。その反動なのか、能力を使わない彼女は周囲が呆れるほど鈍感だった。
どうせなら、みんなの前で告白してやるさ。だから、必ずみんな来てくれよ……。
蓮見は一度だけ今歩いてきた道を振り返ってから、また神楽を追うのだった。