第百六話……ユニコーン4
目の前の男は思わず息を飲んだ。手にしていたアサルトライフルが手が溶け込んでいた。手だけではなく体に触れていた部分にライフルはめり込むように一体化している。
「う、うわああぁぁっ!?」
梶はニヤリと笑みを浮かべ、銃と一体となった銃口側を振り投げた。男は独楽のように回転すると、その銃口はとなり立っていた隊員の胸に吸い込まれる。
「おっ!? おお!?」
混乱した男は仲間の胸の中で発砲した。
一瞬にして陣形が崩れた。
梶は転がるようにそばにいた隊員の足を掴み、引き倒すと同時にとなりの隊員の足とを『スルー』で連結させる。バランスを崩した幾人かは恐怖に顔を歪めながら転がっている。
『スルー』には元々殺傷能力はまるでない。特に梶の能力は外から内に何かを透過させるというもので、例え銃が体の中に入ってしまってもこの場合は特に何も起りはしない。
しかし、体に異物が突き刺さる様は、例え痛みはなくとも見た目のインパクトは絶大だ。その現象が何を意味しているのかわからない恐怖心は本来の効果よりも上乗せされる。
「そこまでだ!」
統率を失い錯乱する隊員達に喝を入れるように隊長が声を上げた。
「……!」
気が付くとすでに円陣を組んでいた隊員達はすべて何らかの形で連結させられ、身動きをとれなくなっていた。
ちっ……。
夢中になっていたが、今まで以上に力が出てきているような感覚に違和感を覚えた。
「これが貴様の能力か? 油断していたぞ、情報とずいぶん違うのでな……さて、隊員達を元に戻してもらおうか?」
「……そんなん向けられてたらようできんわ」
「ほう」
隊長が引き金を引く。弾丸は梶の右肩を貫通した。
「ぐあっ!?」
右腕がダラリと下がった。その衝撃に梶は転がり、傷口は痛みよりも熱感が覆う。
「お前に選択肢はない。わからんのか?」
「けっ……俺が死んだら困るんちゃんか?」
「生きていればいいんだ、意識はなくてもいいんだぞ?」
なってこった、もっともや……。
梶は倒れた一馬を見た。すでに意識はなく、命はすっかり地に帰っていた。
「一馬、やっぱりユニコーンは解散や……」
梶の体がわずかに光を帯びる。それはごくごくわずかな光で、そこにいた誰もが気が付くことはない。
「ユニコーンの決まり、破るわ」
「貴様、何をブツブツと……!?」
ズルっ。と大地が歪む。初めにその異変に気が付いたのは連結された隊員達だった。その隊員たちの悲鳴に隊長は気がついた。
「な、何だ!?」
そう口にした瞬間、隊員達が姿を消した。
まるで広い湖に投げた小石が姿を消すようにどこかへと消えてなくなった。
隊長は慌てて隊員達のいた場所に駆け寄ろとしたが足が動かなかない。
見れば、すでに足が地面に吸い込まれて始めていた。隊長は加速度的に地面に吸い込まれ、咄嗟にそばにあった車両にしがみつこうと手を伸ばしたが、そこに触れた瞬間、手は空を掴むように触れるはずの車両を透過する。
「沈む! 沈む!?」
やがて隊長の声も大地に飲まれ、その場には守衛団の車両と一馬と梶だけが残こされていた。
「けっ……俺、こんな事できたんか、けど、少しばかりハイコストやな……」
極度の疲労が梶の体から意識を引きはがし、彼は眠るように倒れ込んだ。
その戦場から起き上がるものは誰もいなかった。