第百五話……ユニコーン3
「ちっ……!」
梶は慌てて一馬のいる物陰に走り込んだ。
「どうや、ずいぶん引きつけたやろ?」
「ああ、これで谷沢達も無事に行けるだろう。けど、俺達の助かる確率は低くなるばかりだけどな」
二人は手にした銃の弾数を確認する。一馬の『リフレクション』を使い銃弾を跳ね返し、負傷した隊員から武器を調達していた。
殺しはやらない、がユニコーンの決まりだったが、そろそろそうも言っていられない。
武器調達はまだしも、長期戦になればこちらに有利な事は一つもない。
今の兵装なら問題はない。『リフレクション』で何とでもなる。しかし、それ以上の威力のある武器が投入されれば、戦況が変わる可能性がある。
とはいえ、まだ余裕はある。
研究所では至近距離からのアサルトライフルや手榴弾の爆風にも耐えている。
「隊長クラスを狙うんはどうや? 指揮系統を崩すしかないやろ?」
梶の言葉に頷くと一馬は対峙する守衛団に目を向ける。銃を構える隊員のその奥に銃を構えていない人物がいる。
おそらくその人物が隊長だ。
弾幕の中を走り、そこまで辿り着かねばならない。
「奇襲だな、一度しかできないぞ」
「一度あれば充分や」
二人は頷き合うとタイミングを見計らって飛び出した。縦に一列に並んで走りだす。
一馬の後ろを梶がついていく。一馬の能力で攻撃を防ぎ、後ろに控える梶が攻撃に専念するユニコーンの十八番だった。
「撃て! 奴らを止めろ!」
隊員の奥で声があがる。
やはり奴が隊長か。
一馬は弾幕をすべて別角度に反射させ、被害が必要以上に怪我人がでないようにしながら、いくつかの銃弾をはじき返し隊員達のライフルに当てた。
「すごいやないか、お前、そんな事できるようになってたんか!?」
「当たり前だ、あれから何年経ってると思ってるんだ?」
梶はうれしくて口元が思わず緩む。
一馬は昔から自分の能力に対して研究熱心だった。一馬があの頃とかわっていないのだと実感する。
「ちっ……」
しかし一馬には内心焦りがあった。研究所ではもしもの時を考えて能力の全貌を見せないでいために、このコントロールはこれが初めての実戦だ。その上、予想以上に集中力を使い消耗が激しい。
やっぱりここからじゃ、隊長を狙うことはできないな……。
「梶、急ぐぞ! 射程に入ったら一気に決めろ!」
「わかっとる!」
ハンドガンの射程は予想以上に短い。確実に仕留めるならば距離をかなり縮めなければならない。
その時、部隊長が動いた。
シメた!
隊長から発射されたものなら、調整をする必要はなくそのまま弾き返せばいい。
撃ってこい!
「!?」
隊長は引き金を引いた。
発射された銃弾は『リフレクション』で軌道を変えた銃弾は一馬の胸を斜めに貫き、梶の足を穿っていた。
「な、なんや、どういう!?」
倒れ込む一馬に梶は足を引きづりながら、部隊長を見た。
手にはごく普通のハンドガンが握られている。
「さすがは新型の特殊高速弾だ。能力者の力を計算して作られただけの事はある」
能力を計算?
一馬は体を動かそうと必死になったが、出血が多く、その意志とは裏腹に体は動いてくれない。
「一馬! 一馬!?」
梶は弾丸が右腿に残ったまま、膝が抜けるたように彼に呼びかける。
「しっかりしろや!」
「梶、何してんだ……早く、やって……」
消え去りそうな一馬の声に梶はハッとした。
そうだ、今は敵の真ん前だった。今は一馬を撃った奴を……!
「?」
不意に梶の腿の中に残っていた弾丸が内側から外側へとポロリと落ちた。
「……一馬ぁ!」
その現象が何なのか梶はすぐに察しがついた。一馬は最後の力を振り絞り『リフレクション』を作用させ、弾丸を摘出したのだ。
「命令では生きたままの捕獲とのことだったが……一人くらいはかまわないだろう」
隊長の声。梶の周囲に銃口が並ぶ。
「……」
「気にいらんな、その眼。弾を弾くその坊主がいなければ何もできんだろう?」
「……」
梶は鋭く隊長を睨むが、顔を挙げれば、鼻先に銃口が突きつけられる。
梶はゆっくりとその銃に触れた。
例え、梶が目の前にある銃に何かしたとしても、三百六十度、梶を囲むように立った隊員達の圧倒的な有利は変わらない。
彼は自分の触れた銃を持つ男を見上げてボソリと言った。
「……あんた、それで撃てるんか?」
「何? ……!?」