第百一話……あいつらの行方1
「ハァハァ……」
ここまで来れば、大丈夫かな……?
梶、一馬の二人と別れ、しばらく逃走をしたが、逃亡途中でバイクの燃料が切れた。
バイクを慌てて隠し、それからは自分達の足で走り出していた。
すでに追っ手の姿は見えなくなってはいたが、そう簡単に安心はできない。追っ手の姿が見えないのなら、今の内に距離を稼いでおかねばならない。
「ハァハァ……もう、ダメだよ……」
三村が苦しそうに膝をつく。
バイクを降りてからフルートを抱えたまま走っていた彼は余計に体力を奪われていた。
肩を上下させ、顔色もよくない。
「どこか……」
谷沢はどこか隠れる場所はないか、あたりを見回した。三村の状態からしても、このまま走って逃げることは難しい。少し休まなけらばならない。
せめて、バイクを乗り捨てた事が相手にバレない事を祈るしかない。
「三村君、あそこ……あそこで少し休もう」
「……うん」
彼の提案に、三村は無理くりに呼吸を整えながら顔を上げる。そこは元マンションがもたれかかりあい、三角屋根のようになっている場所だった。二方向に口を開いているが、奥は全壊した工場のガレキでほとんど締め切られている。
向う側から覗かれても見つかることはないだろう。
だけど気をつけないと、袋のネズミだ……。
谷沢は三村の先を歩き、三角屋根の空間に確認する。
大丈夫、うまく陰にはなっている……。
ここなら休む事ができるだろう。
「大丈夫?」
「うん……」
谷沢の背を見ながらヨロヨロとついてきた三村は弱弱しく頷く。その顔に余裕はない。
二人はそこで休息をとるために座り込んだ。
熱気をまとった体は座り込んだことで、休息に冷えていく。それにつれて疲労が体のあちこちに顔を出した。
二人の間の風と沈黙の音がやけに耳についた。
こんな時、どんな話をしたらいいのかな?
三村よりも早く呼吸が落ち着いた谷沢は少しそわそわして落ち着かなくなった。
三村とは今回の脱走計画で初めて会話した程度の仲である。三村は元々他の者と進んで交流をするようなタイプでもなかった。
「うぅっ……うぅ……」
「……?」
気がつくと、三村は声を押し殺すように縮こまりながら涙を流していた。ギュッと今まで大事にしていた自分のフルートを抱きしめながら。
「無理だよ、こんな事……」
「……?」
三村は震えた声で涙とともに声をこぼす。
「このままじゃ、僕達、いつか捕まっちゃうよ……」
その言葉に谷沢はドキリとした。
「そ、そんな事ないよ! きっと大丈夫だよ」
谷沢の根拠のない気休めに三村は激しく首を振り、フルートをさらに強く抱きしめた。
「僕達は殺されるんだ、第六研究所なんか目指しているから」
今度は谷沢が首を振る。
「でも、あのまま何もしなかったら、僕達は生物兵器に殺されていたかもしれないんだよ」
「そんな事わからないじゃないか!」
「……!」
「それに、このまま第六研究所に行っても、生物兵器と戦うことになるんだろ!?」
「……」
谷沢は答える事はできなかった。
上村は生物兵器の大元である何かがそこにある、と言っていた。そして、それを破壊するためには、能力者である谷沢達の力が必要かもしれないとも。しかし、もしそうだとしたら、やはり最後には戦わねばならないのかもしれない。
自分達が逃げてきた生物兵器と。
「……でも」
「谷沢君、このままどこか違う所へ逃げよう! 研究所へ行くのは諦めて」
「……!?」