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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第五章 守衛団
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第百話……ユニコーン2

「……でも、奴らはこなかった」


「……」


「俺達のリーダーは誰に相談する事もなく、一人で研究所へと行ったんや」


「……」


「そうやったな、一馬?」


 ジッと梶を見つめていた一馬は、ゆっくりと目を閉じる。


「相談をする必要はなかったからな」


 一馬の突き放したような口ぶりに梶は思わずカッとなった。彼がケガ人でなければ、今に掴みかかっていたかもしれない。そんな衝動を腹の底に押し込み、変わりに拳を握りしめ、手がしびれるほどの勢いで壁を叩いた。


「俺達は仲間やったんやないんかい!?」


「……」


 静まり返る荒野の街で、潜んでいる事も忘れて梶は声を荒げた。


「お前、あの後あいつらがどうなったか知っとるんか!?」


「……?」


 梶は我慢できず一馬に詰め寄る。しかし、一馬の臆する事無く梶と視線をぶつけ合った。


「お前がいなくなって守衛団は確かに手を引いた。けどな、その後に警察が動いて、一斉逮捕になったんや」


 梶の予想に反して一馬は安心したようにフッと笑みを浮かべる。


「そうか、よかった」


「よかったやと!? お前が研究所へ行っても仲間は逮捕されたんやぞ!」


「ああ」


「お前がいなくなってもチームはメチャクチャにされたんや、お前があの時、残っていれば……!」


「守衛団が動いていれば」


「!?」


 まくし立てる梶を一馬は一言で制し、一息ついてからゆっくりと言った。


「奴らを相手にあの街で反抗して、それでどうなる? 俺達以外の人間にも危害が及ぶ、それまで俺達に味方してくれた人間にまで」


 闘おうと思えば、一馬の『リフレクション』は色々な使い道があった。もうその頃から一馬は自分の能力を様々な形で利用できるように研究していた。

 しかし、その力を使いって戦いが長引けば守衛団は過激な行動に出ていたかもしれない。

 守衛団は警察ではない。どちらかと言えば軍に近い。やるとなれば手荒な真似もいくらでもできる。


「それは……そうかもしれん、せやけど……」 


「俺達だってただじゃ済まなかったさ」


 一馬の言葉に梶の脳裏に仲間達と世話になった街の人達、自分達に憧れていた孤児の子らを思い出していた。

 暴力的な一斉逮捕だったが、死人は出ていない。ケガ人は出たが、最後まで抵抗した梶を含む数名メンバーだけだった。

 しかし、それは理屈であり結果論に過ぎない。そんなものはあとからいくらでも言うことができる。例えば、メンバー全員で逃げようと思えば逃げることだってできたかもしれない。


「それに、俺は逮捕でよかったとも思っているんだ。みんな、ずっとあのままってわけにはいかない。それにはきっかけが必要だった」


「……」


 震える梶の視線から逃れるように一馬は立ち上がった。


「お、おいっ!」


「お前の言うようにちゃんと説明するべきだったかもしれない。その清算はするつもりだ」


「清算?」


 オウム返しする梶は一馬が目を向ける外の世界に同じように目を向けた。

 片膝をついたビル、天を仰ぐマンション跡、縦に蛇行する道は一馬達が暮らした街でもよく見られた光景だった。

 都市部のほんの中心部だけが荒野の浮島のように発展し、その周囲に忘れ去られたかのようにスラム街がいつのまにか降り積もった雪にように作られていった。

 荒野の街はどこに行っても、スラムから見た外界の姿を思い起こさせた。


「……一馬、もしかして?」


 闇夜を中にエンジン音が地鳴りのように響いてくる。建物の隙間からライトがわずかにチラついていた。


「追っ手か!?」


「ああ、そうだろうな……」


 予想以上にライトの数が多い。もしかしたら、三村、谷沢達の方ではなく、こちらを追った部隊と合流したのかもしれない。


「二人でいてもいつかは見つかる。俺が囮になるからお前は逃げろ」


「な、なんやと!? お前、まじめな顔でなに言うてんのや!? 俺はな、自分の仲間を見捨てて先に進むことなんてでけへん!」


「……」


梶の言葉に一馬は驚いたように彼の顔を見た。


「アホか、何でもかんでも一人で決めよって!」


「なら、第六研究所には誰がいくんだよ?」


「あいつらがいるやろ?」


 あいつら、梶の言う「あいつら」を一馬も思い浮かべた。


「仲間は信用するもんや。それに、二人でここを切り抜けられたら、なんの問題もない」


「……」


 何の問題もない、か。

 大きな仕事に向かう時の、梶の口癖だった。妙に懐かしく一馬の顔に笑みがこぼれる。


「随分、数がいるみたいやな? 腹も減ってたことやし、ちょうどいいやないか」


「……腹?」


「あんだけいたら、食料ぐらい持ってるやろ? 車は燃料付きやで」


 そう言って梶は笑ってみせた。その笑顔に一馬も笑うと、二人は気持ちを切り替える。


「久しぶりのユニコーンやな」


 梶が楽しげに言った。それは一馬と梶が率いた窃盗団のチーム名だ。


「二人だけだぞ」


「元は二人や。お前が俺と同じ方見てればユニコーンやろ?」


「……ああ、そうだな」


 二人はガレキの陰から光に向かい走り出した。昔のように。


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