第九九話……ユニコーン1
「……くっそぉ!」
あいつらどこ行ったんや。一馬と二人じゃ間がもたんわ……。
梶達は一馬の手当てをしたあと、しばらく行動を共にしていたが、途中巡回していた部隊に見つかり散り散りになってしまった。
ちょうどちょうど夕暮れ時であり、押し寄せる闇に紛れて何とか撒くことができた。
三村や谷沢達がどうなってしまったのか、もはや知る術なはい。
二手に分かれたおかげで助かっているとはいえ、よりにもよってこの状況。
空気重いわ……。
梶は頭を抱え込んだ。
しかも逃亡途中でバイクの燃料は底をついた。どう考えたとしても、この先で燃料が手に入る事など考えられない。
ここからは歩きか……。
とはいえ、警戒して進めばそれが一番安全だ。方角も何となくはわかるし、距離だって歩けない距離ではない。ただ、時間がかかるというだけで。
今晩はここで息を潜めて休息をとり、明るくなるのを待って出るのがいいだろう。
梶自身の疲労もあるが、一馬の事もある。だいぶ回復してきているとはいえ、もしここで追っ手に見つかれば、逃げる事は難しい。
それにしても……。
梶はチラチラと瓦礫を背によりかかる一馬を見た。彼は目を閉じて体を休めている。寝ているのか寝ていないのか、判断がつかない。
何スカしとんのや、こいつ……気にくわんわ。
梶はそわそわと落ち着かなく、何か話題はないかと思案したが、当たり障りのない共通する話題など思いつかない。共通する話題と言って思いつく事と言えばあの事しかない。
「……」
そう思うと、梶は何となく懐かしい気分になっていた。こんな状況じゃなかったら、一馬と会話しようなどと思わなかったかもしれない。
「……なあ、少し昔話していいか?」
一馬はゆっくりと目を開けた。
梶は彼が何か口にするのを無視するように語り始めていた。
……俺が研究所へ連れていかれる半年ほど前の事や。
その頃の俺はガキばっかりの窃盗団に所属していた。
最初は一人で生きていくために始めた事やったけど、途中、偶然会った不思議な力を持つ男とコンビを組むようになって、それからどんどん仲間が増えていった。
集まったメンバーはそれぞれに何らかの事情を抱えたガキばかり。親もなければ、行き場もない、根はいい奴らだけど、クセのある特技ばかりに長けている……そんなチームやった。俺達はたまに失敗をする事はあっても、誰も欠けることなく、それなりにうまくやってたんや。
いつの間にか、その界隈じゃあ有名な存在になって、そこそこ顔も売れ出していた。
窃盗団だが、街には味方も多かった。金持ちや権力者をターゲットにしていた事がその要因やろな。俺達を陰で応援するものやピンチの時にはかくまってくれる人もいたぐらいや。だが、金持ちや権力者を相手にしていた事が、その時は仇になった。
ある時、俺達のシマにどこからともなく一人の女が訪ねてきた。
女は俺達のリーダーに研究所へ来るように説得した。女が言うには、俺達を制圧するために守衛団が動くっちゅうことやった。
運の悪い事に、俺達がターゲットにした奴らの一部に、研究所にパイプを持つ人物が混ざっていたらしい。こともあろうか、そいつは研究所に守衛団の出動を要請したってわけや。
もちろん、普通に考えれば、研究所の守衛団はガキの集まり相手に動きそうもない。けど、リーダーの不思議な力に研究所は目をつけた。
女が現れたんは、取引をするため……。
リーダーが研究所に来れば、守衛団は動かない、と。
俺達はそんな取引には乗らん! 例え、守衛団が来ても、警察が来ても、何があっても! そう俺は突っぱねた。
交渉は決裂した……。