映画デート
〜 映画デート 〜
カーテンの隙間から光が差し込んでいる
チリリリリリン 慌ただしく目覚ましがなった。
いよいよだ
実は昨夜 冬馬君は緊張のせいか嬉しさのせいかあまり眠れなかった。
「大喜 昨日眠れた?」
「うん、まあね」
大喜は眠れてたのか、こんなに緊張するのは僕だけなんだろうか?
二人は昨日買ってもらった服に着替え始め
「うー寒い」
多網は布団の中で薄目をあけて二人を見つめている
多網は二人から昨夜、何処の映画館に何時 何を観るか、必要な情報は全て聞きだしていた。
「この寒さ布団でぬくぬく出来る多網も良いね」と大喜は笑った
冬馬君はいつもはこんなにお洒落には気をつかわなかったが今日はねんいりに鏡を見てはチエックしている
二人はしたに降りて行き髪の毛までセットし始めた
下では、すでに起きている、正子と婆ちゃんがもの珍しそうに二人を見つめている。
すぐさま二階から多網もおりて来て
二人のヘアセットを物珍しそうに見つめていた。
これは気合いが入っている二人だ
「ふーっいよいよか」
冬馬君は囁いた
「うん」大喜も頷く
やはり朝食のパンは冬馬君の喉に通らなかった
詰め込んで牛乳で流しこんだ
「じゃあ、行ってきます」
正子は「あんな調子で大丈夫かしら」と心配そうだ
正子が二階にあがったすきにすかさず動いたのは婆ちゃんだった
孫が心配なのか興味本位なのかサングラスをかけ、何処からか正子の持ってたカツラを探し出しかぶって出陣した
。
多網もすぐさま動いていた
多網なりの変装をして外に出た
鉢合わせてビックリしたのは二人だった
「何してるんじゃ多網?」
「婆ちゃん」
婆ちゃんは多網を見て驚いた
目にセロハンテープを貼り目をつりあげ顔を変えていたからだ
多網は自分の変装がすぐ様ばれた事にがく然とした
と同時に婆ちゃんもがく然とした
自分の自慢のサングラス、更にカツラまでかぶった最高の変装がすぐばれたからだった
しかし、誰が見ても一目で二人だと分かる変装であることには間違いなかった。
「お前もかい多網?」
多網はコクリ頷いた
「これじゃあ二人にすぐばれる、工夫しよう」と婆ちゃんは変装しなおす事にした
場面は変わり
駅のホームに着いた二人
清香達とは映画館で待ち合わせの約束だ。
「久しぶりに会える、緊張もするけどやっぱ嬉しい」ニッたり冬馬君は微笑んだ
「うん、ワクワクするね」大喜も嬉しそう
ガタン ガタン
ホームに電車が到着し
電車に乗りこみイスに座った冬馬君は唖然とした
「ねぇ大喜あれって?」
目の前のイスにどうどうと座り込む見慣れた二人の姿
多網はサングラスをかけカツラをかぶり、婆ちゃんは鼻にセロハンテープをくっつけていた
「あれで変装して、ばれてないと思ってるんだよ」大喜は小声で囁き
二人は見て見ぬ振りをした。
冬馬君は外の景色を見た
ああ、もうすぐ清香に会えるんだ
何だか夢のようだ、胸は高まり心臓はバクバクいっている
大喜もまた、アミに会えると考えては同じような気持ちであった
「でも二人でこうやって一緒に出かけられて良かったね」と大喜
「確かに二人で一緒にデート出来る、何だか緊張感も少し和らぐ気がする」
カタッ
突然何かが落ちる音
前を見ずにして冬馬君は何が落ちたのか見当がついていた
そう入れ歯だった
婆ちゃんは、ばれたと思い焦ったのかこうつぶやき入れ歯を拾った
「婆ちゃんじゃないよ」
衝撃的なセリフであった
多網は鼻くそをほじっている
婆ちゃんは何ごともなかったように歯を装着して席についた
二人は苦笑い
ついに映画館のある駅に着いた
「ここだ」と大喜
二人は降りて後ろを確認した
二人が立って後ろを見てるものだから
婆ちゃん、多網は電車から降りるに降りれず
二人を乗せたまま電車は次のホームに向かい走り去って行った
冬馬君達はもちろん可笑しくなり笑った しかし今はそれどころではなかった
今にも心臓があの入れ歯のように飛び出してしまいそうだった
顔は引きつっている
とにかく二人は映画館に向かった
その時だった
「おーい」
こっこの声は・・・・
きっ、清香だ
冬馬君は自分の心臓があの入れ歯のように勢いよく飛び出してしまったように感じ一瞬意識を失いかけた
「しっかりしろ冬馬 これからだぞ」
大喜の喝だ
目の前に清香が立っていた
クリッとした瞳 黒いショートの髪 水色のシャツに黒いズボン 冬馬君は天使を見てるような気分に浸っていた
「久しぶり元気だった?」
「げっげ げんきっだよ」
大喜はあまりの冬馬君の緊張っぷりを心配した
「あれっアミは?」
「後ろ」
目の前にはアミが立っていた
「おひさー」
「おっ、お ひ さ」
冬馬君は大喜の緊張っぷりを心配していた こりゃ、僕等は重傷だと
映画館に向かう途中の会話は凄まじいことになっていた
「最近はどう?」
「えっ、あっまあ そんなに すごい
普通に良いかな」
「冬休みどっか行った?」
「婆ちゃんと行った」
会話になっていなかった
冬馬君と大喜は女の子達が二人で話してるときに
小声でお互いを支えあった
「しっかりしよう、どうしたんだ?」
「これじゃあ嫌われちゃうよ」
前はもっとまともに喋れたのに
今日は意識しすぎていつも通り喋れなくなっていた二人だった
映画館についてアミからチケットをもらい 四人は席に座った
んっ?後ろの席に見慣れた奴らが
そう、真黒と入れ歯だった
「あの二人ちゃっかし、後ろスタンばってるよ」と大喜は囁いた
「ほんと暇人だなぁ」と冬馬君
四人はぎこちないまま座っている
その時後ろから囁き声が 「ポップコーン 買ってやれ ポップコーン 買って やれ」
この声は多網
冬馬君達はすぐさま席を立ち
清香達にポップコーンを買ってきてあげた
「わーいっありがとう」
二人はとっても喜んでいる
映画が始まるまで一応喋っていたけど会話は何だかぎこちないままだ
後ろで見ていた婆ちゃんはじれったくってしょうがなかった
冬馬君はこんな調子じゃ、もう会ってもらえないんじゃないかとすこし落ち込み始めていた
映画が始まり
暗くなった時
後ろから声が
「いつもの冬馬 いつもの大喜 ありのまま、そのまま」
声は丸聞こえだったが、映画の音で清香達には聞こえていなかった
「婆ちゃんからのアドバイスだ」
「たったしかに、こんなんなら、自分を出して嫌われたほうがいい」
二人は吹っ切れいつもの調子でいよう
、気に入られるようにしなくて良いんだと決めた
映画が終わり、二人の調子は戻っていた
「ああ楽しかった」
「そうだ、ここのデパートのフードコートで何か食べようよ」冬馬君が提案した
「賛成ーっ」
四人の会話はいつもの調子に戻っていた
フードコートに着いて辺りを見渡すとそこには多網と婆ちゃんの姿はなかった
きっと、もう帰ったんだ
さすがにこれ以上はと気を遣ってくれたのか、安心したのか二人の姿はもうなかった。
二人は心の中で多網と婆ちゃんに感謝した ありがとう。
その後の会話もはずみ また、今度も何処か行こうと四人は大盛り上がりだった。
二人と別れた後のホーム
「ああ、楽しかったなぁ」
冬馬君は夢のようなひと時をもう振り返っていた
「うん、最初はどうなるかと思ったけど良かった」大喜も大満足の様だった
「さあ帰ろう」
日が暮れ始めた電車のホーム
二人の手には多網と婆ちゃんへのお土産が握られていた。
つづく