ヒロインにはなりません!
(あ、私転生してる)
目が覚めて最初に思ったのはそんな事だった。
異世界転生て小説とか漫画とかではよくあるけど本当にあるんだなぁ、と思った。
手鏡を見て自分の顔を見るとそこにはピンクブロンドの可愛らしい顔があった。
あれ?どっかで見た事ある様な……。
あっ! 前に読んでいた恋愛小説の主人公の顔だ!
確か名前はステファニーとかだった様な……。
タイトルは忘れたけど内容は孤児院出身の主人公がひょんな事から王子様と出会って恋に落ちて色々苦難を乗り越えて最終的に幸せになる、ていう話だった。
定番と言えば定番だ。
そして、私はキョロキョロと部屋を見回し自分の体をペタペタと触る。
確か小説が始まった頃は15歳くらいでスタイルはめちゃくちゃ良いんだよね。
でも、今の私は明らかに5歳くらいだしまだ王子様とも会っていない。
つまりまだ物語が始まる前の段階だ。
う〜ん、と私は腕組みをして考えた。
確かヒロインは聖女の資格があるんだよね。
でも、聖女になるには真に愛する人と結ばれなきゃいけない、つまり王子様ね。
「無理だ……」
ボソッと呟いた。
だって前世の私は恋愛経験ゼロ=年齢のアラサーのオタク日本人だったからだ。
平凡な人生を歩んでいた私にヒロインなんて荷が重すぎる。
なので、ヒロイン役は早々に辞退させてもらって平民として普通に暮らそう。
私はズキズキと痛む頭で考え決意した。
そこからは将来の為に色々頑張った。
手に職を得るために刺繍とかやったり孤児院内の図書室で勉強したり体力向上の為に体を鍛えたりした。
そんな日々を過ごして10年、私は15歳になった。
15歳になれば孤児院を出て独立しなければならない。
私は孤児院を出て小さな村に引っ越して畑を耕しながらのんびり暮らしている。
そんな私の元にある日意外な人物が訪ねてきた。
ライバルとなる公爵令嬢だ。
どうやら彼女も転生者らしい。
私が貴族学院に姿を見せないのでどうやら私の行方を探させていたようだ。
「貴女が行動しなかったからとんでもない事になってるわ」
「え? だって私は王子様にも会ってないし聖女にもなってませんが」
「まず、その王子様だけど亡くなってるのよ」
「えっ、もしかして私が王子様と出会わなかったから?」
確か、孤児院近くの森で狩猟をしていた時に事故にあって大怪我をして偶然その現場に出くわした私が王子様を救うんだよね。
「それは私がその場にいたから私が救援を呼んで事なきを得たわ、でもその後で毒殺されちゃったのよ」
毒殺っ!?
「どうやら後継者争いに巻き込まれたみたい、原作には無かったから私も驚いたわ」
「それじゃあ、貴女は王子様と婚約してないの?」
「そう、両親は私をなんとか王家に嫁がせたい、と思っているみたいだけど私はそんな気は全く無くて近い内に家出するつもり」
「家出て公爵家を出るの?」
「そうよ、だって貴族社会て窮屈なのよ、マナーとか言葉遣いとか煩いしいちいち人の目を気にしなくちゃいけないし気が休まる日なんて1日も無いわ」
うんざりした様な顔をする公爵令嬢を見て貴族社会に入らなくて正解だったなぁ、とつくづく思う。
その後元公爵令嬢は本当に家出したらしく新聞にも出てちょっとした騒ぎになった。
まぁ彼女だったら前世の記憶でなんとかなるだろう。
彼女、前世は結構危ない事をしていたみたいだから冒険者になる、とか言ってたから。
私は私でこれからも騒がず目立たず暮らしていくつもりだ。




