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【5】「怯えた少女」

俺とネモは、恐る恐る貨物列車から顔を出して、

人の気配にアンテナを張り、周囲を見渡した。


今宵の月は、煌々(こうこう)として

夜だと言うのに視界は明快だった。


「アシナメさん。あれを」


かたわらのネモが、

太い腕を突き出して指を差す。


先頭車両の方で、2〜30人程の人間が、

規則的に、立ち並んでいるのが見える。


「……あれは…依頼主の女と従者達…

 にしては人数が多いな…」


立ち位置から見て、

虚神教の息のかかった者が数名、

他は、たまたま乗り合わせた乗客の様だ。


「なるほど…

 運送列車に偽装していたのか」


本来の目的である、

トマリン運輸の隠れ蓑として

運送列車の形式をとっていた……といった所か。


乗客は、皆、突然の事に困惑して見える。


「……あっ……」


俺はその中に、怯えた様子の少女を見た。


身なりからして、貴族の娘なのだろう。

これから旅行にでも行く途中だったのか、

浮かれた花飾りを頭に付け、小綺麗なドレスを着ている。


少女は、両親の服にしがみ付き、

今にも泣き出しそうだ。


父親はそれを毅然きぜんな態度で守り、

母親はそれを優しく安心させる様に見つめている。



「あれは…あの時の女性ですね」


ネモの言葉で、視線を変える。

虚神教団の側から、動きがあった。


俺達の雇い主である黒ヴェールの女が、

乗客の前へ、歩みを進めたのだ。


「残念だ。それではあなた方は、

 引くつもりは無いのだな?」


女の声をはっきり聞くには、

この距離では、少々難しい。


耳を澄ましてギリギリ聞こえるくらいだ。


聞こえた言葉から察すると、

何かしらのやり取りの末、

乗客側が、その提案を突っぱねたと推測できる。


「不足の事態だが…私も情で身を引ける訳も無く。

 それでは、私はあなた方と殺し合いに興じなければならない」


黒ヴェールの女の物騒な言葉に、

全体にピリッとした緊張が走った。


直後、またたく雷光が、暗闇に走った。

目が焼けるほどの光量が暗闇を一層深くした。


それを放ったのは、乗客側の誰かだった。

乗客の中に、電撃魔法に心得のある者が居たのだろう。


雷光は、生き物の様に、彼方此方あちらこちらにうねり、

やがて明確な意思を持って黒ヴェールの女へ向かっていく。


だが直撃する寸前。

地面から出現した黒い壁に阻まれ

雷光は散りじりに弾け飛んだ。


「なんと気の早い事だ。

 だが残念な事に、この程度の魔法では、この通りなる。

 生半可なまはんかな魔法は無意味だと思ってくれ」


黒ヴェールの女は、よっぽど余裕があるのか、

突然の暴力に腹を立てる素ぶりすら見せない。


だが、女の従者はそうじゃなかった。


白髪に褐色肌の従者が、少し、姿勢を低くしたかと思えば、

砂埃を残してその場から、一瞬で消え去った。



その次に、白髪の従者が再び姿を現した時には、

一人の乗客の生首がその手に握られていた。



───ひと呼吸。



固唾を飲み込む様な、沈黙が流れた後、

緊張の飽和ほうわともなって大きな悲鳴が

ウドドの山肌にこだます。


「ミミナミ。控えろ。

 勝手な真似は許さんぞ」


黒ヴェールの女は、静かな怒りを放ち

急いだ報復を見せた従者を叱責しっせきしたが、

その結果は実に効果的だ。


これで乗客は、黒ヴェールの女達に従わざるを得ない。



「アシナメさん」



ネモの呼び掛けに、意識がこちらに戻される。


「良いタイミングでしょう。

 この騒ぎに乗じて逃げましょう」


「お……ぉう…そうだな」


ネモは、ここから南下した所にある、

広葉樹の多い森林を指差した。


「あそこまで行って、朝まで身を隠しましょう」


「お…おう……あそこまでだな…」


さっきから……感情がコントロールできない。

何か目に見えない枷に、足を封じられているみたいだ。


「……アシナメさん?」



その時、体全体を震す程の、

ドーンという一際ひときわ大きな衝撃が響いた。



反射的に、その震源地を見る。


黒ヴェールの女や乗客がいる場所に、

視野をいちじるしく阻害する

砂の煙幕が巻き起こっている。


「なんだぁ!?」


何が起こっているのか、貨物列車の上からではよく見えない。


俺はその場で起こっている出来事に傾注して

状況を知ろうと目を凝らした。

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