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【15】「最後の凡人」

—————————————————————————————————————


【視野14】「ヨヨア(2)」


—————————————————————————————————————


虚神が蘇り、そしてすぐに倒された。


こんな都合の良い事なんて起こらない。


この世界に、都合の良い事なんか一切ない。


奇跡や、運っていうのは、

きっと誰かが、自分の後悔から

「もう2度とあんな目にあうもんか」って、

自分の心に鞭を打って突き進んだ結果だ。


その強い意志が作り出した、魔法みたいなもの。


だからきっと、これも誰かの後悔が繋いだバトンなんだ。


「ありえない……人間が…アロンパンの魔法を使うなど……

 だが…まだだ……その剣があれば…まだ目的は果たせる」


勇者の体と、神の魂を分離したヨールー。

神の魂を滅ぼされても、その体は無傷だ。


アキヒロ様は、ゲルドパン分離の衝撃で気を失っている。


鋭い眼光と目が合う。


ヨールーはまだ、諦めていない。

私の胸には、受け継いだ『バトン』がある。


「さぁ、ヨールー…決着をつけよう」


「……小娘が…生意気を言うなよ…

 人の中でも、特に無能な劣等の凡人が……」


「そうね。私は凡人……でもね、ただの凡人じゃないよ。

 凡人の終わり……私は…最後の凡人だ」



ぼんじんと、ヨールー(てんさい)の意志が、空間でぶつかる。



白刃が、視界で踊って見えた。


右へ、左へ、上へ、下へ。


それはやがて重なっていき、

ヨールーの攻撃が研ぎ澄まされていく。


それに対応して、パリィングする中で、

私にはそれが、数多の剣撃では無く、

一つの刃の様に感じられた。


その感覚と、私のスキルが重なった。


でも……もう少し足りない。


あと少しで、何か掴める。

何か決定的な変化を獲得できるんだ。



「もう。ここで良い。

 私の成長は、ここで諦める」



そして私は、私が本来持つ【成長値】【2】を、

固有スキル【洞察】に、ひとつ、【パリィング】に、ひとつ

それぞれ割り振った。


固有スキルが変質する。


【成長値】の上限を超えた二つのスキルが統合される。



私は、固有スキル【脆性点直撃クリティカルアタック】を獲得した。



マコト様、ヨヨアは愚鈍に才能を伸ばし続けました。


伸ばした才能の先には、この様なものがありました。


これで…満足して頂けますか?


ほうけるなッ!!侮辱できる立場かッ!!

 奪え!!アークス・アーク……ッ!?」


ヨールーは、スキル発動を途中で停止した。


さとい。流石は転生した神だ。

それが致命的な行動だと理解したのだろう。


「スキルを自ら受けようとしたな?

 お前……気持ち悪いぞ」


額に皺を寄せて、威嚇するヨールは、

きっと、私に恐怖しているのだろう。


恐怖するがいい。


お前が相手にしているのは、

敗者ぼんじんの後悔を紡いで編んだ

劣等感と怨嗟の怪物だ。


「奪えるものなら奪ってみなさい。

 神を受容する程度の、そのチンケな器で、

 受け止められるのなら、受け止めてみろ」


「な…舐めやがってぇ!!

 オレの自尊心を刺激するなッ!!!

 劣等感はオレの原動力だッ!!!

 アロンパンが与えたオレの核心だ!!!

 オレの核心でオレを否定するなぁ!!!」


魔勇者ヨールーは、剣を捨て左手を突き出す。


「奪えぇえ!!!アークスッ!!アークスッ!!!」


引力の干渉を受けた。


私の持つ聖剣パンツォールが引っ張られる。


聖剣は、私の手を離れ、ヨールーの元へ。


「いははははッ!!!!

 これはどうだ!!パンツォールは再びオレの手に!!

 パンツォールは聖剣などではない!!

 ゲルドパンが創造した魔剣だ!!

 英雄の封印が解ければ、因子など必要ないッ!!!」


「そう、別にいいよ。

 それは、マコト様にもらった物じゃない」


「はは…は……バ…バカな奴め……

 パンツォールは……」


「御託はいい

 さっさと来い」


ジリジリと、砂つぶを踏みにじり

私はヨールーへの歩みを止めない。


後ずさる、その狼狽に構いもしない。


ただ、前へ。


「ち……ち…ちか…」


相手を屈服させる為に。


「近寄るなぁあああああッ!!!」


ヨールーは、ドス黒いオーラーを放つパンツォールを振りかざす。


最後まで聖剣の秘密を焦らしただけあって、

確かに魔剣は驚異的な攻撃力を感じる。


それが切り札でいいのね?


貴方の切り札は、その程度でいいんだね?



「オレの前から消えろぉお!!!気持ち悪い生き物がぁああッ!!!」



魔剣の刀身が、私に襲いかかる。



固有スキル【脆性点直撃クリティカルアタック】を発動する。



今、私には武器がない。

でも力は必要ない。



「えい!」



パンツォールの刀身は霧になった。


宝石の雪、輝く銀色の花火、

その向こうで絶望にひしゃげるてんさいの顔は、

全ての嫉妬を、グシャグシャに丸めた様だった。



「あ…あ……そんな…バカなことが……」



私は、次の言葉を許さない。


呆気にとられるヨールーに、

思いっきり拳を叩き付ける。


ヤワな女から放たれる拳なんて、

大した威力はない。


この暴力は、力をようさない。


ただ、当てるだけで良い。


脆性点直撃クリティカルアタック】は、そういうスキルだ。


攻撃した場所を、脆い急所へと変える。

どの様な脆弱な攻撃ですら、致命傷にする。


【洞察】で、見抜き。

【パリィング】で、隙を作り続けた。


二つのスキル《凡才》を、伸ばし続け

その先でまじわって生まれた【チートスキル】


それが【脆性点直撃クリティカルアタック


「うげぇぁああああッ!!!」


私の軽い接触で吹き飛ぶヨールーは、

放り投げられた人形みたいに地面に叩きつけられた。


まるで鉄塊が天空から降ってきたのかと思うほど、

地面が震えて土砂の壁が地中から吹き出す。


魔勇者は、地に倒れたまま動かない。


「……なぜだ…なぜ、こんな事に…

 私は…負ける…この敗北には何の意味がある?

 アロンパンの勝利という事なのか?」


「……さぁ…知らないけどさ

 貴方も人間ぼんじんみたいに、学んだら?」


「……学ぶ?……何を学べと言うのだ?」


「我慢して生きる事だよ」


もうたくさんだ。

こんな無益で、誰の得にならない事は。


「勝ってどうするの?負けてどうなるの?

 悔しいけど、辛いけど、それだけじゃない」


その感情は、本当に大切にすべき事なのか。


「戦って、生きて…。

 負けて、殺して…。

 そんな事さ、我慢してさ…ちゃんと生きなよ」


生きるのって、そんなに殺伐としてるのかな?


「神様の化身なんでしょう?

 なら、まず、人よりも、人らしく生きなきゃ」


「……何を訳の分からない事を……」


「そう……わかんない?」


「?」


「ここで殺されるか!!

 我慢して生きるか!!!

 選べって聞いてんだよ!!!」


「……………」


ヨールーは、大きく目を見開く。

夜天に煌々(こうこう)と輝く一番星を、真っ赤な瞳で見つめた。

やがて、その顔は穏やかになっていった。


「殺せ」


と、私にそう言った。


自分が生きられない事を悟った様だった。


私は、躊躇(ためら)いなく、優しく握った拳を、その顔面に叩きつけた。

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