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【5】「不器用な魔法」

勇者ヨールーに、墓を暴かれ召喚されたマルケリオンは、

金刺繍きんししゅうのローブをはためかせ、メガネを正した。


「…マル…ケリオン?

 私だ!!キャリバンだよ!!

 ねぇ!マルケリオン!!!」


喋る事が出来ないのだろうか、

彼のものとは思えない鋭い目で私を見ている。


ゾクッとした怖気。


法力魔法が来る。


「全員ッ!!攻撃体制!!

 連携通りに戦闘開始せよ!!!!」


私は細い首から、最大限大きな声をり出した。


号令により、一斉に軍勢同士が交差する。


「!!」


風魔法でフワリと身をかわし、

私は、その場から離脱する。


直後、私の居た場所が立方体状にえぐれた。


「オレは、先に進ませてもらうよ。

 気付いているか知らないが、ウドド線の終点、

 ヘシオーム駅から、アイツ(アロンパン)の核までは、立地上、一直線だ」


マルケリオンの攻撃に警戒しながら、

ヨールーの言葉にも耳を傾ける。


「トマリンがここに届いた瞬間、

 本来のゼネオゲゲブをご覧にいれよう。

 お前も頑張って、それまで生き残ると良い。

 あれは見ものだぞ?」


腸が煮えくり返る。とは、こういう感情か。


「ふざ……ふざけるなぁ!!ヨォールーッ!!!」


私の咆哮に、一瞥いちべつして意に介さず。

ヨールーは、肩をクルリと回してヘシオーム王国を見た。


まずい。


ヨールーの足止めをしないと、

奴が先に進んでしまう。


「っ!!危ない!!」


私の周囲に、法力の防壁が迫る。

もう少しで押し潰されるところだ。


マルケリオンから逃げながら、

アイツの足止めするなんて、とても出来ない。


誰か……

誰かいないのか。



ヨールーが歩む、一直線の動線。



その先に、土を踏みしめて、

立ちはだかる者が居た。



その人物と対し、不快そうに立ち止まった。

明らかに意にかいしている。


そう、明らかな敵意だ。


「お前は…」



「英雄マコトの代理。

 ヨヨアだ。

 勇者ヨールー、私と戦え」



そこに居たのは、聖剣パンツォールをたずさえたヨヨアだ。



「お前は…あの時の……」


ヨールーの声色からは、嫌悪が見て取れたが、

感情を切り替えたように、スッと冷静に振る舞う。


「……上出来だ。

 パンツォールを持ってきてくれるとは…

 しかし……オレは油断しない。

 そのプレッシャー。

 なかなかどうして、あの英雄ヘシオムと同格じゃないか」


確かに、以前と比べて、ヨヨアは、

見た目以上に、その雰囲気が変わった。


それをプレッシャーと表現したヨールーは、正しいと思った。


そして、ヨールーは、ヨヨアを脅威と認識しているようだ。


脅威とは、相手の実力を評価し恐怖する行為。


これなら…希望が持てる。

もし私が、マルケリオンを倒す事ができれば、

まだ、可能性は……


「いや…無理だな……」


そんな事を考えている間に、

どうやら私は、チェックメイトを食らったみたいだ。


マルケリオンの法力魔法、その領域指定から

逃げつづ続ける事自体が、はなから無理な事だった。


気付けば、狡猾こうかつに張り巡った、

領域の区内に足を踏み込み、私はもう一歩も動けない。


「……くっ……」


はなから勝ち目のない戦いだったんだ。


せめて『アブソバキム』さえ使えれば………


いや、これは無様な負け惜しみだな。


マルケリオンが居なければ使えない魔法を、

本人に対して使えれば。なんて……前提が成り立たない。


「ぐあっ!!……ぎっ!?」


思わず声が出る。


体内の隙間が膨張しているのを感じる。


人体の内部、内臓や骨格にある隙間を、

領域として、膨張を定義された。


内側から私の体を張り裂き、

使い物にならなくするつもりなんだ。


ブチブチと、体内の肉が剥がれていく感覚は、

今まで味わった、どの刺激よりも脳を痺れさせた。


「ぐっ!!…ぁあ!!」


マルケリオンは、生前では見たこともない

冷たい顔で私を見ている。



「や…やめろぉお!!!その顔でこんなことするなぁっ!!

 マルケリオンはっ!!人を殺める時そんな顔しないっ!!

 彼の魂を侮辱するなぁああッ!!!!」



ツーっと、鼻から血が流れる感覚。

頭の中で裂傷が起きたのなら、もう、私は長くはない。


「悔しいなぁ……悔しいよ……」


無念に包まれたまま。

真っ暗な空間が、私を包んだ。




痛みが……消えた。


これが……死か。




全くの暗闇と、不明瞭な実感。

私は…死んだのか?

ふと、手を伸ばすと、硬い何かに触れた。


硬く。

冷たく。

分厚い。


この感触は……金属?


これは……私は、金属の箱の中にいるのか?



『領域は、座標を定め区切る事だからな。

 その中に異なる領域を作ると、整合性が狂うのだろう』



誰かの声がした。

女の声だ。


「貴女は、誰だ?」


『名前など、どうでもいいだろう

 それよりも、お前に伝言がある』


伝言?


『「どうして語尾をつけてないんだ!!

 キャラ付けした方が可愛いのに!!!」だそうだ』


「その物言い……あの太っちょか?…生きていたのか」


『フン!可愛いなどと言われて浮かれるなよ?小娘。

 私の旦那様なんだからな!!』


「……?」



何が起こっているのかわからない。


でも、どうやら、私はまだ死んでいないらしい。



「!?」



視界が開ける。


再び、紅茶色の荒野が広がり、眼前には、

真っ黒な服を着た女の、色気のある後ろ姿が見えた。


「貴女は……まさか、魔女ヒーリアか!?」


なぜ虚神教団の主人が私を助ける?

こちら側についた?

意味がわからない。


「無駄口を叩く暇などないぞ」


私は、はっ!とマルケリオンに意識を戻す。


マルケリオンの魔法攻撃は、なおも続いているが、

ヒーリアの鉄の壁によって、領域の定義を阻害され、

魔法を完結する事が出来ない様だ。


「今度は、直接お相手できて光栄だよ。法力の賢者殿」


魔女ヒーリアの発想は正しく、確かに有効な手段だが、

このやり方ではいつかは追い詰められる。


マルケリオンは、この手の攻防においてスペシャリストだ。


いずれ、こちらのほころびを突いて突破するだろう。


ヒーリアにも、それはわかっている様だ。


「お前も大賢者なのだろう?何か強力な魔法は無いのか?」


「ある…けど、使えない。領域で区切らないと使えない魔法なんだ!」


「領域で区切る?なんだその魔法は?」


「【真空魔法アブソバキム】だ。」


「なんとまぁ…真空魔法とは…

 また不器用な魔法で大賢者になったものだ。

 しかし、つまりは、空間に閉じ込めればいいのだな?」


「そうだが……あっ……まさか!」


「そうだ…それでいこう」


「できる…かも……いや!!やってみせる!!!」


私は、ヒーリアのアイデアを察し、

それを補助する為にあらゆる魔法でマルケリオンを攻撃した。


炎の嵐が、大気を歪ませ。

液体の刃が、大地を削り。

粒子が像を以って、拳を叩きつける。


あらゆる属性を組み合わせた、高度な攻撃魔法は、

どれも、法力の壁に阻まれ彼に届かず、服の染みにすらならない。


でもそれで良い。


一瞬でも、マルケリオンの意識を防御に回せられれば。


勝敗は、一瞬でつく。


「行くぞ!小娘!!!」


「ああ!!準備はできている!!」


魔女ヒーリアが、金属の防壁を展開する。


だが、マルケリオンにとっても、

それは絶好のチャンスだった。


目の前で、魔女ヒーリアの体が、

法力魔法によってバラバラに飛び散る。


「あぁっ!そんな!!」


しかし、そこに居る女は、2000年を生きる魔女だ。


「お前は国を担う大賢者だろう!!

 私の事など放っておけ!!魔法に集中しろ!!」


「ッ!!」


ヒーリアは、自分の肉片に埋もれながらも、

鉄の魔法を使い続け、ついにマルケリオンを鉄の箱へ。


だが、閉じかけた鉄の箱が、微振動して完成しない。


マルケリオンが、法力魔法で抵抗しているんだ。


「良いか!一瞬だ!!一瞬だけなら強引に押せる!!

 タイミングを外すなよ!!」


「……………」


隙間を開けたり、閉じたりする

鋼鉄の箱に、意識を全て注ぎ込む。


この魔法は、私のプライドそのもの、

絶対に、損なうわけがない。


そう言い聞かせる。


ない自信は、作り出すしかない。


嘘でも良いから。


パチンと、一瞬。

鉄と鉄が触れ合う。


それと同時に、私は魔法を放つ。



「アブソバキムッ!!」



分厚い金属の箱から、鋼鉄の悲鳴が聞こえた。


逆圧でへちゃげる金属は、風船がしぼむように

べこべこと、歪な形に変わっていく。


火花と、煙を撒き散らしながら、

4面すべてが内側へ凹み、その体積をどんどん減らしていく。


やがて、マルケリオンを内包した鉄の箱は、小さな鉄塊となり地面に転がった。


「……これが…アブソバキムか…不気味だ。

 私が今まで見てきた、どの魔法よりも」


ヒーリアは、半壊した体を地面に横たわらせ

悠長にそう評価した。


未だ、赤く火照る小さな鉄塊。


安心と、喪失がグチャグチャに混ざる。


「……ありがとう…」


「いや…何も泣く事もないだろう……」


そう言われて、私は、自分の目端が熱くなっている事に気付く。


「……それは…安堵の涙ではないな…それは…悲しみか?」


魔女ヒーリアの問いかけに、自然と口が動いた。


「いや……あの鉄の箱のおかげで……

 彼の死に顔を、2度も見なくてよかったから」


「………お前のそれは……愛だな」


そんな事、言われなくても知っている。


さようなら。


私の大好きなマルケリオン。


「魔女ヒーリア。

 申し訳ないが感傷に浸っている場合じゃない。

 すぐにヨールーの元へ向かわないと!

 ウドド運行列車も、止めないといけない!!

 それに!虚神教団もなんとかしないと!!!

 あぁ〜!!もう!!!やることが多すぎる!!!」


「待て!動くな小娘!!」


「!?」


魔女の言葉で我に返る。


そうだ、この女は敵側の人間じゃないか。


どう言う理由で、共闘してくれたか分からないが、

まだ敵である可能性の方が高い。


「動くな…とは、どう言う意味だ?」


「死にたくなければ、動くな。と言う意味だ」


「やはり!!貴女は、まだ魔法源泉を破壊するつもりなのか!!!」


「いや。勘違いするな。

 そこら中に私の肉片が飛んでいるから、

 危ないから動くなと言っている」


「……は?」


「私は呪いを受けていてな。

 この素肌に触れると即死するぞ。

 散らばった肉片も、私の体だ。

 死にたくなければ動かない方がいい」


「……動いたら…死ぬって事?」


「そう言う事だ。すまないな」


「すまないじゃ!すまない!!!

 なんて事してくれたんだ!!」


「だが、小娘。安心するといい

 ヨールーの元へは、アキヒロが向かった。

 ウドドの列車へは、とびっきりの御方が行く。

 それと、虚神教団は、撤退させる。

 新教主の命令に従うものは、大人しく引き上げるだろう」


なんだって?


「な…なんで…そんな完璧な…うまい話が…」


ふと、なぜか…あの太っちょの顔が浮かんだ。


以前、私に語尾をつける提案をした、

頼りない太っちょの少年だ。


「アキヒロ……あいつが…この状況をひっくり返したのか?」


「フン!そうだな。そう言って過言はない。

 私の旦那様はすごいのだぞ?」



なんて奴だ。



あいつは、魔女ヒーリアを懐柔し、

マルケリオンを倒すきっかけを作り、

虚神教団を撤退させ、

今は、勇者ヨールーと戦いに行っているのか。


何をどうしたら、魔法も使えない無能力の少年が、

こんな奇跡を起こせると言うのだ。


それでも相手は、あのゲルドパンの転生者。


この状況でも、勝敗は五分。


ウドド運行列車……トマリンが、

ここへ来る前に決着をつけないと、我々に勝利はない。


しかし、私は、動けば死ぬ状況だ。


悔しいが、私は見る事以外出来ない。


頼む、誰でも良い。


あのヨールーを!ウドド運行列車を止めてくれ!!


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