【1】「英雄」
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【視野4】「王国兵団長」
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ヘシオーム王国の地下、遺物保管庫の前で、
王国兵団長を務めとするワシは、
陰鬱な気分で見張りに当たっていた。
王国は、今、絶望に包まれている。
大賢者が尽く殺され、
王兵の大半が王国領西部に散った。
ワシは、何となく、こうなる気がしていた。
マル坊が、あのナヨナヨした3人組を、
【伝説の3人】の後継者とか、ぬかして連れて来た時からだ。
あの日。
小僧どもが遺品保管庫から出てきた後で、
ワシは、部屋の様子を確認する為に中へと入った。
そこには、いつもと変わらぬ位置に鎮座する、
聖剣パンツォールがあった。
そうだ。奴等には、聖剣を手にする実力と資格がなかったんだ。
「マル坊…マルケリオン…
お前がいなくちゃ…この国は…もう……」
その時。
地下へと至る石造の螺旋階段に、
何者かの足音が響いた。
呼応して、一斉に鎧が擦れる金属音が鳴る。
ワシと、見張りの部下は、
アイサインを取り武器を手に、身構えた。
「………何者だ?」
透明感のある白い肌。
金色の長髪。
潤った青眼。
絵画の様に整った顔。
現れたのは、絶世の美女だった。
「……通してください。兵団長さん」
「誰じゃお前……
王城勤めの人間ではないな。
ここがどこかわかっているのか?」
「私は、この先の遺品保管庫に用があるのです
どうか……」
「ならん!!
お前が誰だか知らんが!!
大人しく引き返せ!!」
「……あなたは、愚鈍な私を受け入れてくれた。
力づくはしたくない」
「……愚鈍?……」
その口ぶりには心当たりがある。
脳裏に浮かぶのは、何をやってもダメな、
不器用で努力家の愛らしい栗毛の少女だ。
断じて、この女の様に浮世離れした、美貌の持ち主じゃない。
「力づくとはよく言った。
どうしても通ると言うのなら、
ワシらをのしてみろ!!」
「………こんな事の為に、
この身体を使いたくない」
「はっ!!口だけか貴様!!
あの偽物の英雄どもと同じだな!!」
「……偽物の…英雄?」
「異世界から来たとか言う
どうしようもないクズどもだ!!
我がもの顔で遺物を持ち出したかと思えば
聖剣だけは抜けなんだときた!!
あれを偽物と言わず何と言う!!!」
少々、感情的になっている自覚はあった。
幼い頃から見知り、成長を見届け、
頼りにしていたマルケリオンの死が原因だろう。
だが、そうだとしても
ワシは本心からそう思う。
英雄とは、称号や肩書きではない。
英雄とは、生き方なのだ。
「……偽物かどうか……」
「何だぁ?デケェ声で言え!!」
「試してみますか?」
その時、蝋燭の照り返しを受けた女の顔が、
溢れんばかりの怨嗟を閉じ込めた相好に見えた。
それは、稀に見る狂戦士の威圧だ。
「……お前…どれくらい正気なんだ?」
「……方法を選べるくらいには…まだ」
「……通れ」
女は、深々と頭を垂れ、
ゆっくりとした足取りのまま歩み、
先にある遺物保管庫へと消えた。
「…兵団長殿、応援を呼びますか?」
傍らの、部下が、
ヘルメットに手拭いを押し込みながら
震える声で耳打ちする。
「構わん。あれは止められん」
後ろ盾なく、冒険者稼業からの叩き上げで、
王国兵団長の座に着いたワシは、出世の道中、
幾度か狂人と出会った。
その中でも、あれはとびっきりだ。
「お前らも、この先も剣を握る生き方をするのなら、覚えておけ。
世の中には、剣技や魔法やスキルなどの優遇される才能では、
太刀打ち出来ない輩が、稀に現れる」
「それがあの女なのですか?」
「いや。あの女ではない。
あの女達だ」
「女…達?」
「お前らにはまだ、見えぬのだろうな。
あの女の後ろに連なる。
途方もない後悔の碑が」
その時、再び、螺旋階段に足音がこだます。
「ひぃ!ひぃ!!」
「…魔位測量士殿か。
血相を変えてどうされた?」
王国お抱えの、初老の魔位測量士は、
やや密度の薄くなった頭領部を、
汗で濡らしながら青白い顔で現れた。
よほど急いで来たのか
肩に視聴覚遮断用の顔巻きが垂れ下がっており、
その手には、魔位測定様の黒誂えの魔石板がある。
「兵団長殿!!ここに!美しい女が来ませんでしたか!?」
「ああ。ここに来たぞ。
ワシの判断で奥へ通した」
「ああ!何と!!やはりここでしたか!!」
「…あの女について何か?」
「これを!!これをご照覧あれ!!」
そう言って、恥ずかしげも無く魔石版を見せ付ける測量士だが、
本来は、この様に人のステータスを晒す行為は、御法度のはずだ。
なので尚更、その緊急性が伺えた。
私は、少し覚悟を決めて魔石版を覗き込んだ。
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【英雄ヨヨア】
【魔位】24示 【属性】風【固有スキル】魔力相転移 洞察 パリィング 【成長値】0002/2002
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「英雄……ヨヨアだと?」
文面から得られる事実を受け止められない。
あのぶきっちょヨヨアが英雄だと?
それに…あの見た目は……
いや、それだけじゃ無い。
あの娘から感じた狂気の気配。
数ヶ月前のヨヨアからは、
そんなもの微塵も感じられなかった。
一体、どんな経験をしたら
あんな化け物に変貌するのだ?
それに、このステータス。
「何だ…この馬鹿みたいな魔位は……それに…固有スキルが3つ?」
「そうなんです!!馬鹿げているです!!」
しかし奇妙だ。
どうして固有スキルに【洞察】と【パリィング】がある?
あんな、ありきたりで誰でも習得できるスキルが、わざわざ固有スキルに?
「……待て…この桁外れの【成長値】はどうした?
それに‥もう僅かしか残っていないじゃないか…どこに消えた?」
「そこなんですよぉ!!!あの女!!なんて馬鹿なことを!!!」
「どういう事だ!!きちんと説明しろ!!!」
その時、地下全体を照らす様な眩い光が、
背後の方向から溢れ出した。
それは、まるで暗闇を根こそぎ半球へと追いやる、
黎明を引き連れ現れた太陽の輝きだ。
「ヨヨア……あいつまさか……」
胸に熱い激昂が滾る。
王国は、今、絶望に包まれている。
だが、それは長くは続かないかもしれない。




