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【11】「答案」

その男は、当然現れた。


身の丈は2mに迫る、異常に発達した筋肉を持つ巨漢。

ウジャウジャの髪の毛のせいで、顔のほとんどが見えない。


こいつが、ミミナミが話していた……

ヒーリアに、あんな大怪我させたアンデット野郎か!?


俺は、アンデット野郎の話を聞いた時、

自分の中に、小さな怒りの火が灯されたのを感じた。


惚れた女を傷つけた野郎に、

牙を剥くくらいの野性が俺にもあったのだ。


だけど、この規格外の威圧を前にしたら、握り拳すら作れない。


野性ほんのうが、体を丸めて尻尾を巻いた。



こいつと対峙してはいけないと。



「何をしている!!この間抜け!!!」


「!!!」


ミミナミに突き飛ばされて、

ようやく自分が棒立ちしていたと、自覚した。


オレが居た場所に、鋭い何かが通過して

岩山に面した小屋の壁を、丸ごとえぐり飛ばす。


感じた事のない暴力的な風圧。


どうやら風の魔法を使われたみたいだ。


「早く立て!!お前がヒーリア様をかつぐんだ!!!」


「ぁ…わかった!!」


ミミナミに言われた通りにヒーリアをかついで、

ぶっ壊れた小屋の壁から外へ飛び出す。


だけど、どう考えても、

こんな状態で逃げ切れるとは思えない。


その時、大男の周囲を取り囲む様にして、

黒い金属の壁が地面からり出し、

立方体の箱となって、男を中へ閉じ込めた。


ヒーリアの鉄魔法だ。


「これで、少しだけ時間をかせげる…早くここを離れよう」


この手際の良さと、判断の早さ。


ヒーリアは、以前負けた時に、有効打をいくつか見つけているのだろう、

だからこそ、頑丈に見える鉄の箱に対して「少しだけ」と言ったのも真実だ。


バチバチと火花が散って、変形していく鉄の箱、

聞いた事の無い騒音が森に反響して、

野鳥達が群れで飛び立つ。


大男は、ありえない怪力で

鋼鉄をアルミホイルの様に引き裂いている。


「うわわ!!あんなの、まともに相手できるか!!」


俺たちは、一目散に森の奥へ走った。


しかし、自力では走られないヒーリアを担いだまま、

遠くまで逃げられる訳が無い。


ましては、体力も筋力も、魔力もない、

ただの太っちょの高校生が、その役目だ。


そして、そんな事は、全員わかっていた。


「はぁっ…はぁっ…あいつは…なんなんだよぉ〜!」


オレの泣き言に、背中のヒーリアが答える。


「わからない…ただ、一度、全力の魔力を使って

 バラバラにしてやったのだが。

 そこから回復した事を考えると、

 私よりもはるかに不死性能が高い。

 無論、不死なのだから私の【死の肌】でも殺せない」


ヒーリアは「本当に不都合な呪いだな」と、愚痴をこぼした。


「はぁっ…はぁっ…あいつに狙われる心当たりは!?」


「……きっと、あいつの大切な何かを、

 私が侮辱してしまったのだろう。

 命か、尊厳そんげんか…そういった取り返しのつかいない何かを」


えらい抽象的な話だ。


オレはもっと具体的な、きっかけを探そうと考えた。


何か目的があるのなら、それを解決できれば、

もしくは見逃してもらえるかも……と考えたんだ。


でもオレは、すぐにその考えを改めた。


ヒーリアと出会った時に見た、顔面の傷跡。


あれから、相当な怨みが読み取れたのを、思い出したからだ。


目的があるとすれば、それはヒーリアの命だろう。


「うおっ!?」


その時、オレの顔面に上着が被さってきた。

何か、蜜の様な甘い香りがする。


「そんな事はどうでもいいだろう!!」


ミミナミは上着を脱ぎ捨て、

露出度の高い軽装になっている。


「あいつがヒーリア様狙っているのは事実だ!

 私が迎え撃つ!!その間にアキヒロ!!」


「あっ…はい!!」


「お前がヒーリア様を、

 少しでも遠くへお連れしろ」


「はっ…はい!!……いや、待て待て!!

 お前!死ぬ気とか言うなよ!!

 ベタすぎて胸焼けするぞ!!」


「舐めるな。

 私は虚神教団、随一ずいいち敏捷びんしょうにして…あっ…」


その言葉が終わる前に、

バタンと鉄の箱に閉じ込められるミミナミ。


ヒーリアは、オレの腕を借りながら

フラフラと地面に降り立った。


「……ヒーリア?」


「……ミミナミを死なせる訳には…いかない。

 酷い奴だ。などと思わないでくれよ」


「そんな事、思わないけどさ…どうする?迎え撃つ?」


「どうするも、こうするも無い」


「?」



「お別れだよ。アキヒロ」



心臓に針を刺された様な感覚、

酸欠の魚の様に、口はパクパクと開き

唾の飲み込み方を忘れて、うまく喋れない。


目が眩む、感情の揺らぎ。


まるで脊髄せきずいに、冷水を注ぎ込まれたみたいだ。


「今まで、ありがとう。

 ……最後のお願い…聞いてくれる?」


「……さいご…って」


「私…君と、チューしたい……いい?」


「あ……ヒーリア…オレ…えっと…」


何か言わなきゃ

何か言わなきゃ

何か言わなきゃ

何か言わなきゃ


「ん……」


オレの返事を待たずして、

弾力のある湿ったものが、

唇にぴったりと触れた。



「時間切れだ。バカ者。

 ……君と居た時間は、二千年の間で一番幸せだったよ」


別れの捨て台詞せりふ


黄金色の感情が、腹の底から這い上がってくる。

ヒーリアとの思い出が、体の中で暴れ回る。


そのあと…なぜか……

本当に理由が分からないけど……


鬱展開のエロゲーでお別れしてきた、

二次元ヒロイン達との切ない思い出も、じんわりと脳裏に巡った。


みすず…さな…まこと……


何故かそれと、今の情緒じょうちょが混じり合った時、

感情が爆発しそうになった。


なんだこの現象。


「お……ぉぉお!!いゃだぁあああああ!!!」


「ちょっ!!わっ!!わわ!!!」


ヒーリアの腰に抱きついて、がっちりホールド。

両手を組んで、指を編み込み絶対に離れない格好だ!!


「わー!!バカバカ!!離れろ!!

 君にだってわかるだろう!!

 もうどうにもならないんだ!!

 アイツに見つかるかどうかは賭けだったんだ!」


「うるせ〜!!もうオレは!!

 ヒーリアが居ないと生きてけ無いんだよぉ!!

 オレと永遠に一緒に居てくれよぉおお!!!」


「わぁっ…なっ……なんで今そんな事を言っちゃうんだ!!!

 嬉しいよ!!嬉しいけど……無茶言わないでくれ……

 不死同士の殺し合いは、きっと狂気の沼だ!!君の居場所じゃない!!」


「うるせぇ!!うるせぇよぉお!!

 いやだ!!いやだ!!いやだぁ!!!!」


ヒーリアは、駄駄を捏ねる俺の頭を、

髪をかき分けるように、優しく撫でてくれた。


「君の感情は直線的だなぁ、温かな日光の様に心地いいよ。

 久しく忘れていた……日向ひなたの暖かさは、人肌によく似ている。

 これだけで、この記憶だけで、この先の永遠も……

 きっと私は生きていける。さようなら」


「ちょっ!!まっ!!!」


ヒーリアは、何かしらの魔法を使って、

オレのホールドから、するりと抜けた。


そして、ついにオレは、

鉄の箱に閉じ込められてしまった。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


彼女の体温も、柔らかい感触も

まだこの両腕に残っている。


この二千年間、誰も知らなかった感触。

この先永遠に、誰にも知られない感触。


「くそが…くそがよぉおおおお!!」


くそったれぇ!!

なんで、いつもいつも!!!

人生は、オレの嫌な方にばっかり向かうんだ!!


せっかく自分の不安と向き合えたのに、

彼女の不安を受け止められそうだったのに。


「悪足掻きだって…知ってんだよ」


実際、どれだけ必死になっても、

問題は解決なんかしない。


ヒーリアは死なない。

オレは死ぬ。


オレが一緒になって闘って、

もしオレが死んだら……

ヒーリアは……オレの命を背負って

永遠に生きていくんだ。


そんな事させるのか?


オレは知っている。


この世でオレだけは知っている。



生きることは、死ぬよりも辛い。



死んだオレは知っているんだ、

そんな事、彼女にさせられないだろ。



「答えがあるはずだ」



絶対に何か答えが、あるはずなんだ。


このどうしようもない俺たちの不安には、

きっと答えがあるはずなんだよ。


「答えをくれよぉおお!!!」


誰か…誰か……



ふと。



脳裏に、見た事も無い人間の顔が浮かんだ。


一人は、黒い髪に、紫の瞳をした少年。

少し、ヒーリアに似ている。


彼は、剣を持って、オレにはにかんだ。



一人は、同じく黒い髪の少年。

見慣れた顔つき、日本人だと思う。

誰かに似ているが……思い出せない。


彼は、自分の胸を指差し「見てただろ?」と言った。



……なんだよ……それ……


それって……



「最高に幸せな答えじゃないか」



オレは、腰の短剣に手を伸ばした。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

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