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【10】「凡人のバトン」

肉片を含む真っ赤な鮮血が、黒鉄の大地に飛び散った。


───強い衝撃。


頭がガンガンする。

全身隈無く激痛が襲う。

上手に状態が整理できないけど、

吹き飛んで、地面に叩きつけられたみたいだ。


僕は胸で、ヨヨアの体温と息遣いを感じた。


彼女を庇った拍子に、背中へ深い傷を負った様だ、

流れ出る血液からして、僕はもう、助からないかもしれない。


「マコトさまっ!!マコトさまっ!!!

 なんでですか!!なんでこんな事を!!!」


「そんな明るい顔して、自殺なんかするなよ」


「っ!?……どうして…それ……」


「見てりゃわかるんだよ。

 死にたいんだろ?

 だらだらと、無能な自分のまま

 生きていく事が、耐えられないんだろ?

 だからせめて、意味のある死が欲しいんだろ?」


僕は、ヨヨアの事を

できるだけ優しく抱きしめた。


ヨヨアは、こんなに細くて貧弱なのに、

頑張って生きてきたんだなぁ。


「だって…だってだって!!あたし!いらないんだもん!!

 父さまも!姉様たちも凄い人なのに!!

 あたし何もできないんだもん!!鈍臭くていらないんだもん!!!

 こんな愚鈍な人間は、死なないと役に立てないんだ!!!」


───ああ。


どうして、この子に『才能を伸ばせ』だなんて

言ってしまったのか、ようやくわかった。


『才能を伸ばせ』は、

目立った才能のない奴に使う言葉だ。


それは間違いのない事実だ。


でもそれは、そいつに『期待』してる時に出る言葉なんだ。


そいつに才能がなくて、

上手くやれない事が解っていて、


それでも。


そんな、そいつの事が

好きで好きで、仕方がない時に出る言葉なんだ。


ああ、コーチ。


あなたも同じだったんですね。


あなたにも才能がなかった。

なりたい、かっこいい自分になれなかった。


僕と同じだった。


だから言ったんだ。

僕に期待したんだ。


凡人が、凡人に期待したんだ。



コーチは見たかったんだ。



凡人の惨めで、下らない足掻きが、

才能程度では、辿り着けない奇跡に到達する瞬間を。


きっとそれは、もっともっと前に、

知らない誰かが、知らない誰かに手渡したんだ。


コーチが僕に、その言葉のバトンを渡したみたいに。


ずっと昔から、凡人から凡人へと

受け継がれて来たバトンなんだ。



いつか、凡人が才能を、克服する時の為に。



「安いヒューマニズムだ」


砂つぶを踏み潰す音と、

呆れた声が聞こえた。


もう、上手く動けないけど、

後ろにヨールーが迫っている。


その時、僕の脳裏に浮かんだのは、この世界に来る直前。

驚いた顔で、僕を見るエースの西田の顔だった。


「ヨヨア。悪いけどさ。

 そのアイデアは、僕が先に思い付いたんだ。

 だからね、先に使わせて貰うよ」


「え?」


渾身の力を込める。

人生、最初で最後の本気だ。



固有スキル【魔法相転移】を使用する。



機能を失った体の部位を、全て魔力で補う。


僕は、ヨヨアの手を固く握ったまま、

脚に力を込めて立ち上がる。


失った左腕から、ドバドバと血液が吹き出す。

背中からは、今にも背骨が飛び出してしまいそうだ。


「さぁ…ヨールー。

 もう少し安っぽいヒューマニズムに付き合って貰うぞ」


「……いや。その時間はない。

 どうもヒーリアの動きがおかしい。

 何か……伏兵でも忍ばせていたみたいだな?」


ヨールーは、戦地に目を向け、そう言う。


……伏兵?

なんの事だ?


「さぁ…?僕は知らないよ

 それよりも……君は、僕に用事があるんだろう?」


ヨールーの口元が緩んだ。

口角が少し、上を向いた。


「…へぇ……オレの目的が解ったのか。

 腐っても【英雄】って訳だ」


ヨールーは、再び左手を僕にかざす。

そしてまた、あのスキルだ。


「奪え。『アークス・アークス』」


胸の中で、大きく強い塊が動いてゆく。


「もう…いいんだ。

 僕は助からない。

 君にも勝てない……だから諦めたんだ」


そう、僕はもう「かっこいい僕」になれない。


「英雄は、とはなんだ?

 両手足をもがれても、諦めない者を、

 そう呼ぶのだと思っていたぞ」


「僕は、英雄じゃない。

 ただの凡人だ」


その時、僕の胸から、皮膚を突き破って

青白い塊が頭を出した。


それは宝石のような美しい形をしていた。


「【英雄の因子】だ。

 ようやく手に入れられる。

 これでパンツォールが戻れば、

 今度こそアロンパンを葬れる」


次第に、僕の体に変化が現れる。


髪の色、目の色、顔立ち、体型が

元の姿に戻っていく。


英雄マコトから、佐倉 誠に戻っていく。


「ヨヨア」


「…マ…マコト様?」


「バトンタッチだ」


僕は、胸にある【英雄の因子】を、力尽くで引きちぎる。


「!?」


狼狽うろたえるヨールーの顔に、

ほくそ笑むような喜びを感じた。


そして、手にある【英雄の因子(バトン)】を、

ヨヨアの胸に思いっきり叩きつけた。


「いっ!!……マコトさま!?…これは…!!」


ヨヨアの髪が、目の色が、顔、体型が変わっていく。



コーチ。

これでいいんですよね?



「キャリバン!!!この子を連れて逃げろ!!!」


後ろに居たキャリバンへとヨヨアを突き飛ばす。


そして、足元に転がっていた、

誰の物ともわからない剣を、拾い上げ手に持った。


「お前……舐めた真似しやがって…

 死に損ないの無能が……」


手にある剣を見つめる。

これはただの剣だ、聖剣じゃない。


でも……コーチ。

最後に、もう一度。


もう一度だけ、自分の才能を試したいんです。



固有スキル【魔法相転移まほうそうてんい



魔位20示だった僕の体内にある、

全ての魔力を剣の刀身へ。


───相転移。


物体が、個体から液体に、液体から気体に。


その相を転移させるように、

魔法というエネルギーを相転移させるスキル。


その不明瞭な魔法エネルギーを、

異なる相へと転移させた時、

一体どんな変化が起こるのか。


それを今から、この目で見てみよう。


「いくぞ……凡人の…最後の足掻きだぁッ!!」


右手に、全身の血が集まるような感覚、

体は爆発して飛び散りそうだ。


でも大丈夫。


目線はミットど真ん中、

大きく振りかぶって、

腕をしならせ、素早く前へ。


思い描くのは、グランドに響き渡るミット音。



「吹き飛べぇ!!!『テュプロアブニス』ッ!!!」



「っ!?」


本物の英雄の必殺技と比べて、何万分の1かはわからない。


けれど、それは僕の持つ剣から飛び出したんだ。


僕は、格好の悪い態勢で、吹き飛んでいったヨールーを見ながら、

勇敢に命を使い果たした「かっこいい僕」を噛み締めて。


そして。


僕は死んだ。


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