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【6】「私じゃないよ」

その日は、唐突にやってきた。


ヘシオーム王国領 西部諸国伯コブロン氏と、

雷霆の大賢者アラランが殺害されたとの報告が入ったのだ。


西部諸国は、以前、襲撃にあったウドドに近い領地で、

魔族ゲルアントとの国境でもある地だ。


その知らせを皮切りに、僕達は一同に集められ、

ヘシオーム国王を交えた会合が行われた。


そこで僕達の西部諸国への遠征が決定したのだ。


西部諸国へは、ヘシオーム王国軍の主力兵団と、

アヌローヌ共和国の連合軍。

法力の賢者マルケリオンと、真空の賢者キャリバン。


そして、僕、勇者マコトと、聖女ナオで向かう事となった。


マルケリオンが、僕とナオの実力を、十分なものと評価した結果だ。


結局、僕はマルケリオンに一撃も与えられないままだったが、

近衛兵を凌ぐ実力は、戦力として十分だと判断したらしい。


ナオについては……僕は彼女が模擬戦に参加している所を見た事が無い。


図書館で熱心に本を読んでいる姿や、

小さい女の子と遊んでいる能天気な姿などは見た記憶がある。


あまり熱心に戦闘訓練を積んでいるとは思えないが、

マルケリオンの部屋で、付きっ切りで修練に励んでいたらしい。


それが真っ当な修練なのかは、いかがわしいが。


そして……アキヒロだが。


彼は、西部諸国へは同行するが、

王族の別荘にて待機が命じられ、

戦闘への参加は認められなかった。


この数ヶ月、アキヒロは一切成長しなかったのだ。


アイツの言う「ふくせん」とかいう能力も開花しなかったし、

武器も使えないし、魔法も使えない。

そして何よりも、すぐサボる。


「へへへ!ヒーローは遅れて登場するからな!!」


この期に及んで、そんな事を言っているアキヒロに、

ついに僕は軽蔑を通り越して呆れてしまった。


もう期待する事は無いだろう。


僕には、奴と違って現実を見つめる視野がある。

それは、この次死ねば、もう、おそらく次は無いと言う事だ。


僕にだって、お決まりの展開とやらに心当たりがある。


楽観的に見れば、この世界で死んだ僕は、

次に目覚めた時、病院のベッド上に居る。

そして「よし!この経験を生かして真面目に生きるぞ!」と、

日本昔話みたいに教訓を得て改心してに生きる……。


てな具合だ。


だが、そんな上手い話がある訳が無い。


次死んだら、もう、きっと僕は蘇ったりしない。


「こんにちは、なのら」


「?」


不意に話しかけられた僕は、振り向いて周囲を探す。

だが…その姿を見つけられない。


「ここなのら。私はここに居るのら」


「ん?」


ふと視線を下に降ろすと、少女が立っていた。


短めに揃えた白銀の髪に、眠そうな橙色の瞳、

白地に金の刺繍をあしらったローブをふわりと揺らし、

その手には、身の丈を大きく超えた、複雑な形状のスタッフ。


「君は?」


「初めましてなのら。

 私は、キャリバン・ト・キャリバーンと言うのら」


「キャリバン?…ああ…大賢者の」


その名前には聞き覚えがあった、

確か、真空の大賢者様だ。


「あなたが、英雄ヘシオムの『因子』を継承した子なのらね」


「ぁ…ぇえ…はい」


僕の気の抜けた返事には理由がある。


大賢者キャリバンと名前を聞いて、

イメージしていたのが、髭を蓄えた老人だったからだ。


えらく幼く見えるけど、いったい何歳なんだこの人?


そこへ、コツコツと、足音を立てて

マルケリオンが現れる。


彼は、キャリバンを見つけると、口の端を持ち上げた。


「やぁ、キャリバン。久しぶりだね」


「あぁ、マルケリオン。

 久しぶりなのら。色々と噂話を聞くのらよ?

 どうやら、若い女にうつつを抜かしているらしいのら?」


キャリバンには、小さいながらも、ドシッとした圧力がある。

きっと、ナオの事を言っているのだろう。


「おやおや。君から言われると耳が痛いよ。

 僕の机の上には君の肖像画があるのだよ?

 そんな噂話には耳を傾けないでほしい所さ」


「どうせ誰にでも言っているのら!

 信じられないのらよ」


どうやら、マルケリオンは女癖が良くないと見た。

確かに、この見た目と実力なら、引く手は数多だろう。


いけ好かないね。


「それはそうと……キャリバン。

 その喋り方はなんだい?」



えっ!?……素で、この語尾ってわけじゃないのか!!



「あらら。マルケリオン、知らないのら?

 ひとつ上のヒロインは、喋り方からキャラを立てるのら」


「……おかしな本でも読んだのかい?

 どうせすぐ飽きて、後から顔を真っ赤にするんだから、

 よした方が良いよ。悪いことは言わないから」


キャリバンの言葉から何か……既視感の様なものを感じた。

僕の脳裏に、アキヒロの顔が浮かぶ。


そういえば、アキヒロに魔法学を教えていたのは、

キャリバンだった気がする。


こっちの世界のアホが……すみません。


「うるさいのらね。

 後で「私もやれば良かった」と思っても知らないのらよ!!」


「いや。私は遠慮しておくよ」


しかしセルフキャラ付けとは、なかなか……あれだな。


その喋り方は、某幼稚園児を彷彿とさせる…

確か、名前が僕と同じだった様な。



「それよりも聞いたのらねマルケリオン。

 あなた、鋼鉄の大賢者ネダチを倒したのら?」



突然のキャリバンの問いかけに、

マルケリオンは少し複雑な顔をした。


数ヶ月、彼と毎日会っているが

こんな顔を見たのは初めてだ。


「お耳が早いようで」


「賢者衆の中で噂になっているのら。

 神戦時代の大賢者を倒すだなんて異例の事なのらよ」


「そんなに強い敵を倒したんですか?」


マルケリオンの反応もあってか、

思わず会話に入ってしまう。


「生還するだけでも凄い事なのらよ。

 鉄人のネダチと言えば、英雄ヘシオムの剣技の師なのら。

 当時最強と言われた大賢者なのらよ」


「英雄の師匠……そりゃさぞかし強いんでしょうね」


ちらっと、マルケリオンを見ると、

目を細め、あご下を触りながら

ものを考えている。


「………」


「ん?どうしたのら?」


「いえ…ただ、少々皆が勘違いしている様だから、

 ここいらではっきり言っておこうかと」


「?」


「鋼鉄の大賢者ネダチを倒したのは、私じゃないよ」


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