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【3】「才能」

僕達は、それぞれかなり豪華な部屋を用意された。


豪華絢爛な装飾に包まれた、ロココチックな部屋だ。


正直、全然趣味じゃない。


「大変な事になったな」


ベッドに体を預けて、しばらく考えを巡らせてみる。


能力の測定について思うところがある。


思っていたよりも、

大した結果じゃなかったからだ。


あからさまな数値があるのだから、

もっとドカッと、爽快にわかりやすく

自分の『才能』が明るみなるような…

そういうのを期待していたのに。


それでも、素晴らしい能力に違いはないのだろうけど

あの聖女ナオの数値に比べたら……



『お前は、何やっても中途半端なんだ!!才能を伸ばせ!!努力だ!!』



野球部のコーチの言葉が聞こえた気がした。


僕には、野球の『才能』がなかった。


球を投げる時の、指先のグリップ感、

体の重心で球を殴る感覚。


あらゆる言い回しで説明されても

どれも自分の中に落とし込めない。


そんな僕に対して、

コーチがよく言っていたのが、

『才能を伸ばせ』という言葉だ。


僕は自分の『才能』を知らない。


自分の『才能』を知っていれば、

伸ばす事もできるし、

それは強力な武器に他ならない。


だから期待したんだ。


この世界には、

それを数値で見る方法があるのだから。


でも結果は、よくわからなかった。


魔法だのスキルだの言われても

そんなもの見た事も使った事もない。


「……はぁ!!……テュプロアブニス!!!」


僕は、聞いただけの必殺技を放ってみようと

腕を突き出して技名を叫んでみたが、何も起こらない。


いや…出なくて良かった。

無思慮むしりょにやってみたが、

成功したら大変な事になる所だった。


「才能ってなんだ…

 これじゃ異世界でも活躍できない…」


ずっと考えてきた事だ。


もしも、圧倒的で他を屈服させる能力があれば、

中途半端な僕の人生に光が差し込む。


プロ野球選手みたいなヒーローに……

マルケリオンみたいに『最強』だなんて呼ばれたり……


力があれば、能力があれば、才能があれば……


れば、れば、れば、れば……


「……そうだ…あいつはどうなんだろう」


ふと、隣の部屋にいるアキヒロの事が気になって

僕は、彼の部屋を訪ねる事にした。


——————————————————————————————————


「ん〜?どうしたマコト」


アキヒロは、まるで同じ寮に住む友人を、

受け入れるような感覚でドアを開いた。


てっきり落ち込んでいるのだと、

そう思っていたんだけど肩透かしだな。


「いや、少し話でもしようと思って」


「おおー!!いーよ!

 入りなよ!!」


アキヒロは、なぜかTシャツにパンツ姿で、

部屋には学生服が散らかっている。


元々どんな部屋に住んでいたのか、

このズボラな様子からは想像に容易たやすい。


「それで?なんについて話しする?

 あれか〜?ハーレムの作り方とか!?」


ソファーに向かい合わせに座っていると、

パンツから彼の「アキヒロさん」が見え隠れしてとても不快だ。


「あ…いや。マンガの話がしたいんじゃないんだよ。

 せっかく同郷の仲間がいるわけだし、

 お互いの事を話しておこうと思って」


「そっか!そっちね!!

 俺は、清水しみず明宏あきひろ

 こっちに来たきっかけは……

 まぁトラックに撥ねられたとか……そんな感じ!」


「あー…やっぱりトラックなんだ。

 僕は佐倉さくらまこと

 同じくトラックに轢かれたんだ」


「そっかそっか!

 やっぱ定番だもんな〜」


「そうなの?

 なんでトラックなんだろう?」


「さぁ?一番手っ取り早く

 即死させられるからじゃない?」


「うわーっ発想エっグ」


そんな感じで、修学旅行の夜みたいな雰囲気で、

僕等はくだらない雑談で盛り上がった。


アキヒロは、なんだか緊張感の無い奴で、

話していると気が抜ける…いや、気が楽になる奴、

テスト前日に一緒にゲームしているくらい安心する。


「そうだマコト。俺、話聞いてなかったんだけど、

 明日は武器?を取りに行くんだっけ?」


「そうそう。確か、例の伝説3人が残した、

 武器とか道具とかを、城の地下に取りに行くんだって」


「おー!!迷宮に、お宝探索ってとこか?

 モンスターとか出んのかなぁ?

 俺ザコみたいだからフォローよろ〜」


「楽観的だなぁ」


そのやり取りで思い出した。

僕は、アキヒロが落ち込んでいると思って、

話を聞きに来たんだ。


でも、いざ話してみればアキヒロからは、

落ち込んだ様子を、一切感じられない。



『才能』が全くない。



そんな事実を突き付けられて、

傷付かない奴がいるはずがないのに。


「なぁ…アキヒロはさぁ……平気なの?」


僕の質問に、アキヒロは、眉をひそめて天井を見つめた。


すると、肉付きの良い首元をポリポリと掻いて、

少し考えてから「……どれの事?」と答えた。


確かに、起こった事が多すぎて

主語がないとわからないだろう。


これは僕が悪い。


「能力がゼロだった事」


「あ〜アレね。

 俺が思うに伏線なんだろうと思ってる」


「ふく…せん?なにそれ」


「説明が難しいかしいな……要するに、

 後で強くなるヒント…みたいなもんかな?」


「え!?そんな事がわかるの?」


「……うん、まぁアニメなら、ありがちなパターンだよ」


アニメ?……アニメと、今の状況に、

なんの関係があるんだろう?


ああ……そうか。

ようやくわかった。


彼と、僕との間には、大きな価値観の違いがあるんだ。


アキヒロは、ここをどこか違う世界ではなく

『アニメやゲームの世界』だと考えているんだ。


それは……きっと、間違いだと思う。

筋書きのあるストーリーの中に、

自分が居るとは考えられない。


そうか……彼の様子や態度がようやく理解できてきた。



僕は目の前の人を見下した。



状況に向き合わず現実逃避で逃げ出す、

落伍者の代表みたいな奴だ。


きっと悩みなんて、カケラも無いんだろうな。


「そりゃ……羨ましいな」


「だろぉ?強くなったらさ!

 平然な顔して…かっこいいセリフを飛ばしてやるぜ!!」


「ははは……ん?ちょっと静かに…」


僕は、部屋の外に意識を向けた。

扉を開け閉めして廊下を歩く音が聞こえる。


「マコト?どした?」


「あっちの部屋って…ナオの部屋だよな?」


アキヒロの隣には、ナオの部屋が用意されていた。

音から察するに、彼女はどこかに向かったようだ。


「……ナオちゃんね……美人でエロいよな〜

 正直言ってめちゃタイプだわ〜」


ゲスな目線で物を言う奴だな……でも、

悔しいが同感な部分がある。


「うん…凄いよな

 なんというか…可愛さと色気が両方ある」


「そうそう!!わかるわ〜!!」


アキヒロは手を叩きながら

僕からの共感を喜んでいたが、

ふと、真面目な顔に戻る。


「何しに行ったのかな?」


「さぁ…なんだろうな」


「……風呂かな?」


「……風呂あるのか?」


「どうかな…アニメなら8話くらいに…」


「アニメの話はもういいよ」


「……………」


「……………」


「行くか」


「行こう」



息を殺した僕達は、

抜き足、差し足、忍び足で、

ナオの後を追った。


きっと、何かいいものが見られると思ったからだ。


だが、ようやく見つけた彼女は、

マルケリオンの部屋に入っていったのだ。



「……………」


「……………」



「さて、もう寝ようか」

「ああ、寝よう。すぐ寝よう」


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


蝋燭ろうそくだけが室内を照らす、

薄暗い書斎に向き合う男女。


「ナオさん……だったね?

 こんな夜遅くに私に用事かい?」


マルケリオンを直向ひたむきに見つめる彼女は、

何か特別な質問があるようだ。


「…えっと。ちょっと聞きたい事が…あって…その…」


頬は赤く。

口元は動きが悪い。


何か言いづらい事のようだ。


「そうか…いけない子だ。

 私に興味が湧いてしまったんだね」


マルケリオンは、彼女の意思を汲んだのか、

ドアを背にしたナオに密着し、

華奢きゃしゃな首から下あごを探り当て、くいっと持ち上げた。


「私は、賢者である前に一人の男なんだ。

 スキを見せちゃ…ダメじゃ無いか」


ナオは、目を細めた。


聖女の告白で蝋燭ろうそくの火は大きく揺らぐ。


この夜の事は、誰も知らない。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

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