099 王都冒険者ギルド②
「そうは言うがな伯爵様。俺たちは冒険者としておまんま食っていかなきゃならねぇ。俺たちがバウムガルテン領を知らないってことは、バウムガルテン領が話題にも上がらねぇくらい稼げねえ領地だからだ。あんたは領地が広がって嬉しいのかもしれねぇがよ? 俺たちが命を張る理由にはならねえよ」
「そりゃそうだ」
「危険ばっかりで儲けが少ないなんて割に合わないぜ?」
「伯爵と縁を結べる好機。でも、旨味がないんじゃねえ……」
「そうですね、姐さん」
反論がくるとは思っていたが、お前がくるのか、ライナー。ライナーはベテラン冒険者だからな。若手の冒険者がオレの言葉に乗せられて無駄に命を散らすのを防ごうとしているのだろう。ゴツイ顔をして、ライナー意外と仲間思いなのだ。
「ライナー、それはもはや過去の話だ」
オレはクラウスが使用人に用意させたカバーのかけられた台車へと近づいていく。
「見よ!」
オレはカバーを無造作に掴むと剝ぎ取った。台車の上に姿を現したのは――――!
「GURURURURURURURURU……」
「キャァアアアアアア!?」
「アレは!?」
「まだ生きている!?」
「ドラ……ゴン……?」
「いや、あれは……」
「ヒュドラか!」
受付嬢の悲鳴が木霊する中、冒険者の視線がヒュドラの頭に集まった。
「知っている者も居るか。そう、これは我がバウムガルテン領に現れたヒュドラの頭。九つある首の中でも中央にあるといわれる不死の首だ。今からその証拠を見せてやろう。クラウス、ナイフを」
「かしこまりました」
「ヒュドラの首を持ってくるなんて……!?」
「バウムガルテン領にはヒュドラが出るのか……」
「生息地が限られる猛毒の竜だぞ? そんな危険なモンスターが出るなんて……」
「なんで伯爵はヒュドラの首を出したんだ? こんなの誰もバウムガルテン領には行かなくなるだろ……?」
「いや、ヒュドラの不滅の首は……」
冒険者たちが囁く中、オレはヒュドラの目の下、頬のあたりにナイフを入れる。もう何度もやった作業だ。間違えることもない。
「KURURURURURURU……」
というかこのヒュドラ泣いてない? 声にも力が無いし、まるで命乞いしているみたいだ。
まぁ、それも仕方ないのか? 首だけになってから何度も何度もナイフで切られているし……。不死性が邪魔をして自殺することもできない。考えれば考えるほど憐れな生き物だ……。
まぁ、オレには関係ないが。
スッとヒュドラの頬にナイフを走らせ、黒い臓器のようなものを切り取る。ヒュドラの毒腺だ。
「クラウス」
「はい、旦那様」
毒腺の端をキュッと結ぶと、クラウスの用意してくれた金属トレイに毒腺を置いた。
「そのまま換金してきてくれ」
「かしこまりました」
クラウスが金属トレイに乗せたヒュドラの毒腺を持って冒険者ギルドの受付カウンターまで行く。すると、青い顔をした受付嬢が無理やりに笑みを浮かべて対応し始めた。
冒険者たちは静かにその様子を見ていた。
「失礼、換金をお願いします」
「か、かしこまりました。係りの者を呼んできます」
「その必要はないよ。僕が鑑定……の必要もなさそうだけど、一応ね。確かにこれはヒュドラの毒腺だね。かなり状態がいい上物だ。まぁ、目の前で捌かれてまだ温かいんだから当然かな。色を付けて金貨三十枚でどうだろう?」
クラウスが窺うようにオレを振り返った。この値段でいいのかの確認だろう。
金貨三十枚なら満足だ。オレは頷いて返す。
「はい、かまいません。それでよろしくおねがいします」
「金貨三十枚だと!?」
「マジか、貴重だと聞いてはいたが、まさかそれほどとは……!」
「俺たちの給料何日分だよ……」
「なるほど、伯爵の狙いは……!」」
実際にヒュドラの毒腺が金貨三十枚という大金で売られるところを見せられた冒険者たちが騒ぎ出す。中にはオレの狙いに気が付いた者も居るようだな。
「まぁ、そんなわけだ。しかし、驚くのはまだ早い。ヒュドラの毒腺は左右に一つずつある。もう一つあるのだ。しかも、このヒュドラの頭は不死で回復力もある。明日の今頃にはもう一度毒腺が手に入るだろう」
「金貨六十枚が永遠に……!?」
「そんな大金が……!?」
「ヒュドラって儲かるんだなぁ……」
冒険者たちの目にはもうヒュドラの頭が宝箱かなにかに見えていることだろう。
「このヒュドラは、我がバウムガルテン領で狩られたものだ。バウムガルテン領には、ヒュドラが居るのは確実だぞ? そして、我々が挑むのは人類未踏破の大地だ。中にはヒュドラ以上に珍しいモンスター、高値で売れるモンスターも居るかもしれんぞ? バウムガルテン領では儲からないというのは、もはや過去の話だ」
「うおー! 俺はバウムガルテン領に行くぜ!」
「俺もだ!」
「一度行ってみるのもありか?」
「あたしらも行ってみる?」
金の力ってのはすごいな。オレは人が心変わりする瞬間を目撃した。
だがな、一番初めに声をあげたリーンハルトくん。君は絶対に連れて行かないよ?
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