096 おすすめキャラ
「ふむ。どうするか……」
王都のバウムガルテン邸の執務室。オレは悩んでいた。
オレの手には一枚の羊皮紙。先日の伯爵就任に対して贈られてきた贈り物や祝い金などが書かれている目録だ。
目録には、多額の金銭と祝いの品がずらりと細かい字で書いてある。今まで治療してきた貴族たちからお祝いにかこつけて治療費を貰った形だ。子爵に就任した時と同じだね。
おかげでオレの手元には、普通に生活していたら使い切れないほどの金額が集まっていた。毎月支払われるマヨネーズの利益と合わせると、もう本当に途方もない金額である。
この金を元に領地の開発をするつもりなのだが……。オレは領地に帰るべきだろうか?
領地を開発するためには、オレは領地に帰った方がいい。学園も閉鎖されてしまったしな。
だが、心配なことがある。それはリーンハルトだ。
「あいつを一人にして大丈夫か?」
学園襲撃イベントの済んだ今は仲間を集めて自分たちを強化するフェーズだ。一応幼馴染のメインヒロイン、ビアンカとベテラン冒険者であるライナーはリーンハルトの仲間になってくれそうだが……。他のキャラクターの攻略状況はどうなってるんだ?
一度、リーンハルトと話をしないとダメか。
「しかし、あまり介入するのも考え物ではあるんだよなぁ……」
まぁ、ビアンカとライナーが居れば、最悪なんとかなるか?
だがまぁ、一応確認しておこう。あとで後悔はしたくない。
◇
「よおディー! 久しぶりだな」
「リーンハルト、呼び出して悪かったな」
オレはリーンハルトを喫茶店に呼び出した。遅れてやって来たリーンハルトの後ろには小さな人影があった。あれは……。
「ディーは知ってるんだったか? こいつがビアンカだ」
「お、お初にお目にかかります! ビアンカと言います。よろしくおねがいします」
「ああ」
やはりビアンカだったか。ゲームの時の面影がある。キレイ系というよりもかわいい系の少女だな。
「オレはディートフリート・バウムガルテンだ。そうかしこまらないでいい。普通の口調でかまわないよ」
「ありがとうございます!」
「あまりビアンカをいじめるなよ?」
「いじめていない。立ってないで座ったらどうだ?」
「ああ、そうだな」
「失礼します……」
「注文は何にする?」
「なにもいらない。金がないんだ」
「わたしも……」
そういえばリーンハルトも貧乏貴族だったか。
「そういうことならオレが払う。好きなものを頼め」
「マジかよ? ここ高級店だろ? 本当にいいのか?」
「ああ、ちょっと臨時収入があってな」
「じゃあ、俺はお茶とケーキと……。おっ! パフェもあるのかよ」
「ちょっとハルト君、そんなに頼んじゃ……」
「かまわないさ。ビアンカも好きなものを頼むといい。このチョコレートが甘くておすすめだよ」
この世界のチョコレートは、まだ固める方法が発明されていないのか液体なのが普通だ。味はホットチョコレートに似ている。
「ありがとうございます! じゃ、じゃあ、それで……」
「飲み物だけでは寂しいな。ケーキかクッキーでも頼むといい」
ビアンカはだいぶ恐縮しているようだ。オレが貴族だからか? それともこの見た目が普通と違うからかな?
「うめぇー! ケーキとか誕生日以来だ!」
「おいしい……!」
注文が届き、パクパクと食べるリーンハルトとビアンカを見ていると、満足した気持ちになるから不思議だ。まるで甥と姪にご馳走しているおじさんの気分だな。
「それで、ディーは何の用だったんだ? 俺はビアンカを紹介できたから丁度良かったけどよ」
一通り食べ終わったリーンハルトが尋ねてきた。
「リーンハルトは学園がない間は冒険者をやるって言っていただろ? その後、順調かと思ってな?」
「ほーん。それがまぁいろいろ問題があってさ。まず金がねえ」
「それは自分で稼げとしか言えないな。仲間は集まったのか?」
「おう! 俺とビアンカ、あとはローデリヒとザビーネ、ドロテアの五人だ」
「ふむ……」
なんだ。心配していたが、リーンハルトもちゃんと仲間を集めていたらしい。パーティの構成もなかなかいい。だが、少しお節介してもいいだろう。
「実は面白い奴の噂を聞いてな。今日はこれをお前に伝えようと思っていたんだ」
「へー。んで? その面白い奴って?」
「商業地区のうさぎのしっぽ亭って店があるんだが、そこの見習い料理人が冒険者になりたいらしい」
「料理人? そんな奴をパーティに入れてどうするんだよ?」
「まあ聞けよ。そいつのギフトは料理人なんだ」
「うん?」
「料理人のギフトは、モンスターの弱点や食べ方、毒の有無なんかがわかるギフトなんだ。それに、食材にできるモンスターに対して攻撃力が上がる戦闘職でもあるんだ。しかも、料理人の作る料理を食べれば体力や聖力が回復する。遠出をすることが多い冒険者にとって、それがどんなにありがたいかわかるだろ?」
「そいつはたしかに……」
「仲間にしておいて損はないぞ? 本人の人柄もおおらかでいい奴だしな」
「商業地区のうさぎのしっぽ亭だったな? そいつの名前は?」
「アーベルだ」
「助かる」
それだけ聞くと、リーンハルトは立ち上がった。たぶんアーベルに会いに行くのだろう。
「行くぞ、ビアンカ」
「あ! ちょっとハルト君! あの! すみません。思い立ったら一直線な人なので……」
「かまわないよ。それより早く追いかけたら?」
「はい! ありがとうございます! ごちそうさまでした!」
ぱたぱたリーンハルトを追いかけていくビアンカ。
あんなかわいい子がなんでリーンハルトのことが好きなんだろうなぁ……。
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