095 ドラゴンの目
夜。オレはなんとなく気になって自室の窓から王都の街並みを見下ろしていた。
上から見下ろした王都は、大通りや歓楽街がぼうっと明るくなっている。道行く人々や馬車が見えて、まだまだ王都が寝静まるには時間がかかることがうかがえた。
気になったのは、朝方コルネリアと模擬戦をした後に感じた謎の立ち眩みについてだ。
普通そんなこと気にしないだろうが、オレは生まれ変わってから一度も立ち眩みを起こしたことはないし、あれは立ち眩みというか、視界がぼやけるというか、なんだか普通ではない体験だったのだ。
今のオレの目は人間のものじゃない。爬虫類のような縦長の瞳孔を持つドラゴンの瞳だ。なにか問題でもあるのなら事前に把握しておきたい。
「とりあえず、鳥目のように夜を見通せないということはなさそうだな。いや、逆に見えすぎる。この目は夜目も利くのか?」
普通なら見えないような月明かりも届かない路地裏も、意識すれば普通に見通せた。目がいいとか夜目が利くとかのちゃちなレベルじゃない。明らかに人間を超えた視力だ。
「目がよくなったレベルじゃないな。まぁ、見た目が変わったんだ。それぐらい変化はしているか……」
でも、見た目が変わるほど変化したんだ。それもただの爬虫類の目じゃない。ドラゴンの目だぞ。視力が上がったり、夜目が利くのは嬉しいけど、なんともしょぼくないか?
「どうせなら魔眼みたいな特殊能力が欲しかったぜ……」
いや、まだ諦めるのは早いんじゃないか?
なにせオレの目はドラゴンの目だ。ドラゴンなら、魔眼の一つや二つ持っていてもおかしくないだろ。
「魔眼の発動ってどうやるんだ? やっぱオーソドックスに目に魔力を籠めたり? ……え?」
確証なんてなかった。悪ふざけのつもりだった。だが、自分の目に聖力を籠めた瞬間――――。それは開眼した。
まるで望遠鏡を覗いたみたいに視界がズームできたのだ。遠くに見えていた街の明かりが、今ではすぐ近くのように見えた。
「遠視ってところか……?」
ちょっと想像とは違う効果だったけど、どうやらこのドラゴンの目はやはり特別な効果があるらしい。
しかも、まだまだポテンシャルを隠しているようだった。
「透視もできるのか……」
オレの目には、建物の壁を貫通して家の中の様子が映っていた、どうやら知らない家の家主はベッドに入ってもう眠っているらしい。
しかもこの透視、自分の好きに何度でもすり抜けられるようで、家を二、三軒透視した向こうで夜道を歩く人を裸に透視するなんてこともできた。
非常に感覚的なことなので説明が難しいが、まるでスイッチを切り替えるようにすると、魔眼の種類が変わるらしい。それでいて、遠視プラス透視なんて合わせ技もできるみたいだ。
「あはは……!」
オレはもう有頂天だ。たとえ遠視しか使えなかったとしても、オレはご機嫌だったに違いない。魔眼という言葉でわくわくしない男の子なんて居ないだろ?
しかも、オレの目はまだまだ力を隠し持っているらしい。
こんなのテンションが上がらないわけがない!
「次の魔眼だ。これは……? これはどういう効果なんだ?」
オレはわくわくしながら自分の魔眼の性能を調べていく。どうやらこのドラゴンの目には、遠視、透視、吸魔、威圧の四つの魔眼の力があるようだ。
吸魔の魔眼は、対象から魔力(聖力)を吸収する魔眼だ。対戦相手の魔力を削れるのは大きいし、削った魔力を自分のものにできるのはもう強いというかズルい。
そして威圧の魔眼。これは対象の動きを恐怖で縛る魔眼だ。そこ行く通行人に試してみたが、まるで蛇に睨まれた蛙のように動きを止めてしまった。悪いことしたな。
オレが手にした魔眼はこの四つだが、正確に言うと、今の段階でオレが使うことができる魔眼が四つってところだな。
魔眼の力は、そしてオレのドラゴンの身体能力は、まるでギフトのように成長するような予感があった。
本当に成長するのかわからないし、どうやったら成長するのかもわからない状態だが、なんだかわくわくする。もうドキドキだ。心音がうるさいくらいである。
「ギフトのようにモンスターを倒せば成長するのか? それともなにか違う……。例えば治癒のギフトのように呪われたアイテムを解呪すれば成長するのか? わからん。だが、おもしろい」
オレの頭の中には、ゲーム『魔剣伝説』の知識がすべて詰まっている。その知識を総動員しても答えが出なかった。そのことにわくわくする。
そうだよな。攻略情報をインターネットで調べるのはお手軽だが、それでは謎解きがただの作業になってしまう。やはり自分で試行錯誤して一から調べていくのが面白い。
まぁプレイスタイルは人それぞれだし、強要するつもりはないが、オレはその方が好みだ。
「さてさて、どうするか……。モンスターは倒しに行きたいところだが……。まずは呪われたアイテムでも解呪してみるか?」
オレは興奮してそのまま寝ることなんてできず、呪われたアイテムが置かれた地下室にいそいそと歩いていくのだった。
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