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093 三度目の王宮

 人生で三度目となる王宮。まさかまた呼ばれることになるとは思いもよらなかった。今回は事前に何の用かは知らされている。


 前回なにも知らされなかったのは、王様のお茶目らしい。謎の罪悪感を感じるからぜひとも止めてほしい。例えるなら、なにも悪いことをしていないのに警察を見ると緊張してしまうあれだ。


「すごい……」

「…………」

「あばばばばばば……」


 王宮の荘厳な建物や飾られた絵や壺を見て感嘆の溜息を吐くコルネリアとつまらなそうにしているリリー。コルネリアは感受性が豊かだね。なんだか両者の性格の違いがわかって面白い。バッハ? バッハなら目を剝いて放心状態だよ。


「…………」

「…………」

「…………」


 そんなコルネリアやバッハも謁見の時間が近づくにつれて静かになっていった。緊張しているのかな?


「三人とも緊張しなくてもいいよ。受け答えはオレがするからね」

「お願いします、お兄さま」

「ん」

「お、お願いします……」

「バウムガルテン卿、お時間です」

「ああ」


 係りの者に呼ばれて、オレたちは謁見の間へと進む。この大きな扉の向こうが謁見の間だ。


 扉が開かれると、広い空間へと繋がる。部屋の中央を赤い絨毯が貫き、絨毯の左右には、近衛兵や貴族たちが並んでいた。


「バウムガルテン子爵の入場です!」

「行くぞ……」


 小声で後ろに並んでいるコルネリアとリリー、バッハに声をかけると、オレは一歩を踏み出した。緊張で喉がカラカラだ。もう三回目のはずだが、一向に慣れることはない。絨毯のぽふぽふという踏み心地もなんだか頼りなく感じてしまう。


 前を見ると、王様の他にもクラウディアとエレオノーレの姿もあった。クラウディアなんて笑顔を浮かべて小さくこちらに手を振っている。


 オレは手を振り返すことなんてせずに、王様から少し離れた位置でひざまずいた。


「ディートフリート・バウムガルテン。並びにコルネリア・バウムガルテン、リリー・バウムガルテン、バッハ。命により参上いたしました」

「うむ。よく来たな子爵よ。まずは卿の献身に感謝しよう。卿はこの国に巣食う病魔を払い、此度はなんと学園を襲った邪悪なるドラゴンを討伐した。卿のおかげで助かった命は数えきれないほどだ。朕の娘たちも命を救われた。後ろの三人がドラゴンの討伐をした者たちか?」

「はっ! 我が妹たちです。右のリリー・バウムガルテンがドラゴンを拘束し、左のコルネリア・バウムガルテンがドラゴンに止めを刺しました。最後の一人はバッハ。私の従者をしております」

「ほう。皆、幼いながらも卓越した戦士なのだな。将来が楽しみだ。卿も見事な活躍だったと聞く。その身がドラゴンを討伐した代償か?」

「はっ!」


 オレの肌の色は、この国の人間には珍しい浅黒い肌だ。そして、目も普通の人間とは違う。普通なら気味悪がられても不思議ではないと思うのだが、王様からはそんな気配はなかった。むしろ、温かいものを感じたくらいだ。


「その姿は邪悪なるドラゴンを討伐した名誉の証である。誇るがいい」

「はっ! 感謝の言葉もございません」


 王様が理解のある人で助かったよ。これでこの見た目を表立って忌避する人間は少なくなるはずだ。


「卿の献身は計り知れないほどだ。朕は卿の献身に報いたい。バウムガルテン子爵よ、今よりバウムガルテン伯爵を名乗るがいい」

「ありがたき幸せ……」


 伯爵になるのは事前に知らされていた。戦争で勝ったわけでもないから領地が増えたわけじゃないからな。オレに与えられる領地なんてない。だから爵位だけ上がる。


「そしてもう一つ。卿には東の領土の切り取り次第の許可を与える」

「ッ!?」


 それは知らされていなかった。王様のサプライズか?


 バウムガルテン領の東は人間の領土ではない。モンスターが巣食う森や山が広がっている魔境だ。そこを切り取り次第……!


 上手くいけば、領土を大きく広げるチャンスだ。おそらく、領土はあげられないけど自分で勝ち取ってねということだろう。


 王様も粋なことしてくれるじゃないの。


「謹んでお受けいたします!」

「うむ。卿が然るべき実力を兼ね備えれば、約束通り褒美に娘を嫁に取らす」

「えッ!?」

「「「ッ!?」」」


 約束? そんな話は聞いていないぞ!? え? なに? どういうこと?


 オレは王様の娘と結婚できるの? それってどっち!?


 後ろの三人もよほど驚いたのか、背後から息を呑むような音が二つ聞こえた。


「励むがよい。以上だ」

「……はっ!」


 質問する時間も与えられず、オレたちは王宮を後にしたのだった。



 ◇



「お兄さま! 結婚とはどういうことですか!?」

「お兄、黙ってた?」

「いや、オレも初耳だ。信じてくれ」

「でも、陛下は約束があるようなことを言っていたではないですか!?」

「ああ、うん……」


 王宮からの帰りの馬車の中。オレはコルネリアとリリーに詰め寄られていた。


「やっぱりに身に覚えが? そういえば、クラウともエルともわざわざ人払いして会っていましたね?」

「それほんと?」

「いや、本当に知らないんだってば! そもそも、王の娘と言っていたがクラウとエルのどちらと結婚することになるかもオレは知らないんだぞ?」

「本当かしら?」

「かしら?」

「お願いだ。信じてくれよ……」


 厳しい目を向けてくるコルネリアとリリーにオレはただただ頭を下げるしかなかった。

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