092 お風呂でのボヤキ
「あふぃや~~~~~~~~~~~」
バッハが用意してくれた熱々の風呂に入ると、おじさんくさい声が出てしまった。
まったく、風呂は最高だぜ!
「しっかしまぁ……」
オレは浅黒い肌になってしまった自分の体を見下ろす。元は透き通るような白色だったのに、ドラゴンの血を浴びたら皮膚の色が変化していた。不思議だ。
ドラゴンの血の毒が抜けきらなかったというわけではないらしい。何度も自分で調べてみても怪我も病気もしていないし、宮廷魔法使いや宮廷薬師にも調べてもらったが問題は無いらしい。
「まぁ、肌の色くらいどうでもいいか」
そして、変化した部分は他にもある。それは目だ。オレの赤の瞳は、まるで爬虫類のように縦に割れた瞳孔になっていた。他にも、瞳の色自体ちょっと濃くなった気がする。まるで血のような赤黒い色だ。
肌の色はまだ人間の範疇だが、瞳はアウトだね。こんな瞳の人間居ないだろ? なんだこれ? もしかしてドラゴンの瞳か? どうしてこうなった?
「はぁー……」
なんだかせっかくドラゴンを倒したってのに前途多難だな。魔女裁判じゃないが、迫害されたらどうしよう? 泣くぞ?
「どうすんだ、これ? てか、オレってまだ人間なのか?」
わからねえな……。
そもそも、ゲームでこんなイベントなかったぞ? なんでドラゴンの血を浴びたらこんなことになるんだ?
わからないことだらけだ。
「まぁ、もう仕方ないよな……。戻れないし……」
でも、一つだけ気が付いたことがある。どうやらこの目はかなり視力がいいらしい。元の目と比べれば、一目瞭然なほどクッキリはっきり見える。学園長の細かいシワを一つ一つ数えることもできたくらいだ。
まぁ、見た目が与える影響は気になるところだが、強化されているのは嬉しい点だよな。
あとは体の方もなにか変化があるかもしれないし、それは追々調べていこう。
「あ~~~~~~~~~~どっこい」
そういえば、学園はしばらくの間は臨時休校するらしい。校舎にも被害が出ているし、グラウンドがドラゴンの血で汚染されてしまったためだ。
それに、あの巨大なドラゴンの亡骸をどうにかしないとグラウンドも使えないしな。
ドラゴンの素材についてだが、まだ確定していないが、ドラゴンを倒したオレたちが貰えることになりそうだ。ドラゴンの鱗や牙、爪なんかももちろん、その肉や血さえも高級な素材らしい。ドラゴンは捨てる所がないんだとか。
その売却金額は……。城が十や二十建つんじゃないかと言われている。まぁ途方もない金額ってことだな。
そんな莫大な金額の金があれば、どんなに下手をこいても領地を発展できるだろう。
バウムガルテンの領民の姿を思い浮かべる。あいつらにも贅沢させてやるぞ!
なんだか王都に来てから金運に恵まれているな。できればずっと続いてほしい。
もう貧乏貴族は卒業と言ってもいいだろう。
「さて、学園も休みになるし、どうするかな?」
できれば旅行とか行ってみたいな。この世界は『魔剣伝説』の舞台なんだ。聖地巡礼じゃないが、いろいろと行ってみたい場所は数多い。
それに、他国に行くのもいいかもしれない。異世界の食事や文化も魅力的だよね。
オレは『魔剣伝説』を通してしかこの世界のことを知らないからな。
おかげで邪神についてカギとなる情報はいくつも持っているが、その国の風土なんかの情報には疎い。前世では海外旅行もできなかったし、邪神の復活にはまだ時間がある。優雅に旅行というのは、とてもいい考えに思えた。
「そういや、あいつはどうするか……」
旅行にも行きたいところだが、ちょっと目を離せない問題もある。
それはゲームの主人公であるリーンハルトのことだ。
ゲームでは、学園襲撃イベントが起きた今からアドベンチャーパートの始まりだ。リーンハルトは仲間を集めたり、モンスターを狩ったりしてギフトを成長させたり、今からが旅の準備の本番となる。
リーンハルトの今後のために仲間にしておきたいキャラクターはいくらでもいる。オレは邪神の討伐をリーンハルトに任せるつもりなのだ。
だって、邪神を討伐するって危ないし、面倒だろ?
ゲームだったら喜び勇んで邪神の討伐に乗り出すところだが、これは現実だ。何日も危険な野宿を繰り返し、モンスターと絶え間なく戦い続け、いくつもの難攻不落のダンジョンを挑戦しなければならず、だんだん少なくなっていく食料や物資に怯え、その先に待つのは世界の敵である邪神との戦闘だ。
そんなのに挑むなんてもうドMの極致だろ。なんでオレがそんなことをしなければならんのだ。
せっかく主人公が居るんだから、邪神を倒してもらおう。
そのためにも、リーンハルトには万全の状態で旅立ってもらわなくては。
あいつ、放っておくと幼馴染メインヒロインであるビアンカとも疎遠になりそうだったからな。たぶん他にも改善するべき点はいくらでもあるだろう。
「まったく、世話が焼ける……」
だが、これもオレが将来楽をするためだ。将来への投資だとでも思えばいい。
「リリー? こんな所で何をしているのです?」
「それはこっちのセリフ」
「わたくしは、お兄さまのお背中を流そうと……」
「それはリリがやる。お姉はどっか行く」
「あ! こら、待ちなさい!」
考え込んでいたら、なんだか外が騒がしくなってきた。
またコルネリアとリリーが突撃してくるのかな?
もうお互い十三歳になったんだし、さすがにお風呂は別々の方がいいよな?
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