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009 レベル上げのその後

「よし、次だ……」


 日付も日時も分からない中、オレは呪いの解呪が終わった剣を無造作に投げると、新たに呪われた籠手を手に取る。


 オレはすべての時間を呪いのアイテムの解呪に費やしていた。ギフトのレベルが上がり、聖力と呼ばれるMPが有り余っているからこそできる荒業だ。


 解呪したアイテムは、そのほとんどを売り払っている。中には驚くような高値で売れるものもあった。我が領の大事な収入源だ。


 呪われたアイテムは装備すると能力が下がったり、装備自体が脆くなったり、回復アイテムが逆に毒になったりしていいところがないからな。だからタダ同然のような安値で買い取れるんだが、まったくボロい商売だ。


 だが、まったく胸は弾まなかった。


 コルネリアが助からねば、なんの意味もないんだ。


 コルネリアが助かるかどうかは、もう時間との戦いだ。オレが治癒のギフトを極めるのが先か、コルネリアが息を引き取るのが先か。


 最近、コルネリアはついに目も覚まさなくなった。昏睡状態だ。もう時間がない。


「坊ちゃま、少しはお休みください。もう三日も飲まず食わずですぞ!」

「爺、休める余裕なんてあるわけないだろ! それに自分を治癒している。問題ない」

「ですが! このままでは坊ちゃままで体を壊してしまいます!」

「今、無理をしなければ、これまでのすべてが無意味になるんだ!」


 オレのすべてはコルネリアなのだ。コルネリアの居ない世界など、意味がない。


 爺が後ろからオレの肩を掴んで揺さぶる。視界がブレて吐きそうだ。


「そんなことはございません! 坊ちゃまのおかげで、この枯れ果てた領地に希望が生まれました! 領民たちも喜んでいます!」

「止めろ爺。そんなわけはないだろ。オレは領民から子どもを奪い。他領に売り払った男だぞ? 恨まれこそすれ、感謝などされるわけがない!」

「もちろん初めはそうでした。しかし、ここを卒業した子どもたちからそれぞれの親に手紙と仕送りが届くと彼らも態度を変えました! 坊ちゃまは間違っていなかったのです!」


 それは親に仕送りを送った子どもたちができた人間だったからだろう。オレの功績じゃない。


「とにかく! もうオレのことは放っておいてくれ! オレにはコルネリアがすべてなんだ!」

「坊ちゃま……」


 オレは解呪の終わった籠手を放り投げ、薬液の入ったフラスコを手に取った。


 オレに諦めるという選択肢はない。


 それに、なぜかオレにはあと少しで治癒のギフトを極められるという確信があった。前世で何度も何度もゲームを通してギフトを極めてきたことからくる勘なのかもしれない。


 もしくは、もう三日も寝ていないことからくる根拠のない自信なのか……。


 あやふやな感覚だが、オレはそれに賭けていた。


「ではせめてこの水だけでもお飲みください。それで爺はもうなにも言いません……」

「ああ……」


 人間の体は水さえ飲めば一週間は食わなくても耐えられる。


 オレはお盆に乗せられたコップの水を手早く飲み干すと、解呪の続きにかかった。


 そして――――。


 それは呪われた兜を解呪し終わった時だった。


「……完成した……」


 靄がかかったようにハッキリとしない頭。


 だが、オレはたしかに治癒のギフトがレベルマックスになったという確信を得た!


 これでコルネリアを救うことができる!


「あー、今、何日だ……?」


 座っていただけなのに体はひどく疲れて硬くなっていた。


 眠気は限界で、もう何も考えたくはない。


 だが、オレのことはどうでもいい。一刻も早くコルネリアを治療しなければ!


 のっそりと立ち上がると同時に、倉庫のドアが乱暴に開かれた。


「爺、オレはやりきったぞ……。コルネリアは……? 今日は何日だ……?」

「坊ちゃま! コルネリア様が! コルネリア様が……!」


 オレの頭は一瞬で覚醒する。こんなに慌てた爺は初めて見た。コルネリアになにかあったのだ!


「くっ!?」


 コルネリアの部屋に走り出そうとすれば、足がもつれて転びそうになる。


「坊ちゃま、失礼します! お早く!」


 爺に支えられて、オレはコルネリアの部屋に急いだ。部屋のドアは開いており、そのまま中に入れば、そこにはいつもと変わらない光景が広がっていた。


 コルネリアはベッドの上で静かに横になり、その隣にはクマのぬいぐるみが一緒に寝ている。唯一違うのは、コルネリア付きのメイドであるデリアが泣き崩れていることだ。


「どういうことだ? 何があった?」


 無性に嫌な予感がした。本当に血の気が引き、寒ささえ感じるほどの強烈な嫌な予感だ。


 オレは縋るようにコルネリアの眠るベッドに身を預ける。


 コルネリア……。こんなにやせ細ってしまって……。髪も輝きが無く、すべてがくすんで見えた。


「坊ちゃま……。コルネリア様は……。たった今息を引き取られました……。無念でございます……」

「そんな……。そんなバカな話があってたまるか!」


 オレはコルネリアの頬へと手を伸ばす。やつれ、カサカサになったコルネリアの頬。そのまま鼻に手を近づけると、たしかにコルネリアの呼吸は止まっていたのだった。

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