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089 イベント戦

 中が詰まっているのか、なにか問題が起きているのか、地下への退避は遅々として進まなかった。オレとコルネリアは、校舎の中から学園長たちとドラゴンの戦いを見ていた。


 戦いはひどく一方的だった。


 教師たちの攻撃はドラゴンには通じているようには見えず、ドラゴンの攻撃は掠っただけでも致命傷だ。


 もう何人もの教師たちが戦闘不能に追い込まれてしまっている。まさかここまで差があるとは思いもしなかった。


「ツヴァイマギア!」


 そんな中でも唯一善戦しているのが学園長だ。学園長の火と雷の魔法は、ドラゴンの漆黒の鱗を破壊している。ドラゴンも鬱陶しそうに学園長を睨んでいた。


 だが、その善戦も長くは続かない。教師たちの形作った前衛の守りは紙のように引き裂かれ、ついに学園長を護る者は居なくなった。それでも何度かドラゴンの攻撃を避けて戦闘を続けていた学園長だったが……。


「ここまでか……!」


 ドラゴンの無造作に振るわれた前足が掠り、学園長の左足を消し飛ばしていた。万事休すだ。


 まぁこれで戦闘は終わりだな。あとはドラゴンがこっちに来ないことを祈ろう。


「お兄さま……!」

「うん?」

「わたくし……! わたくし……!」

「どうしたんだい?」


 怯えているのかと思っていたコルネリアだが、なんだか様子がおかしい。コルネリアは決意を秘めた瞳でオレを見上げてきた。


「わたくし、学園長たちを助けたい!」

「ふむ……?」

「助けたいの!」


 この絶望的な状況で助けに行くの? コルネリアが?


 マジか……。いや、コルネリアのまっすぐ育った心は美しいけれど、さすがに今回は分が悪いんじゃ……。


 いや、待てよ?


 学園を襲ったドラゴンは、ゲームでは物語の中盤のボスとして現れる。その時のドラゴンのパラメーターを思い返せば……。勝てない相手ではないな。


 だが……。


「お兄!」

「え?」


 ポフンッと背中になにかが抱き付いてきた感覚。振り返って見下ろすと、特徴的な赤毛が見えた。リリーだ。


「リリー? どうしてこんな所に!?」

「ドラゴン見えた」

「ひょっとして、わたくしたちを心配してきてくれたのかしら?」

「ん」


 その通りだと頷いてみせるリリー。これは嬉しく思えばいいのか、それともリリーを怒ればいいのか……。


「リリーお嬢様! ああもう! すばしっこいな! って、旦那様とお嬢様!?」

「バッハ……!」


 きっとリリーのお守り役だったのだろう。バッハまで現れた。


 リリーを危険な場所に来させてしまうなんて……。後でバッハにはきつく言っておかないとな。


 だが、おかげで戦力は整った。


「リア、本当に学園長たちを助けるのかい? それはあのドラゴンと戦うということだよ? その覚悟はできている? もしかしたら、この中の誰か、例えばバッハとか死んじゃうかもしれないよ?」

「縁起でもないこと言わんでください! って、え!? あのドラゴンと戦うんですか!? 正気ですか!? 頭大丈夫ですか!?」

「大丈夫です! お兄さま、わたくし、後悔だけはしたくないの! 学園長たちを見捨てたら、きっと後悔してしまう。そんな罪の意識を背負って生きていくなんて、できない!」

「なるほど。本気なんだね?」

「はい!」


 コルネリアは本気だ。本気の目をしている。


 邪神がドラゴンの動向を観察している可能性。そんなのは臆病なオレの想像という不確実なものに過ぎない。


 そんな不確実なものよりも、オレにとってはコルネリアの心の方がよっぽど大事だ。


 普段あれこれとあまり欲しがらないコルネリアの願い。それを叶えないなんてお兄さま失格だろう?


 オレはお兄さまを遂行する!


「その意気やよし! さあ、これからドラゴン退治だ! リリー、バッハ、力を貸してくれ!」

「ん!」

「あーもう! くそっ! わかりましたよ!」


 バッハがやけくそ気味に叫んだ。不本意そうだが、そこに怯えはない。瞬時に命を懸ける選択ができるのは、バッハが一人前の戦士になった証なのかもしれないな。


「では、行こうか」

「はい!」

「ん」

「了解です!」



 ◇



 わたくし、コルネリアは校舎を飛び出して一生懸命走る。


 学園長先生は、今にもドラゴンに踏み潰されてしまいそうだった。もう時間がない。


 お願い! 間に合って!


 わたくしはだんだんドラゴンに近づいていく。近くで見るドラゴンの姿はとても大きかった。


 怖い。


 これからあのドラゴンと戦うのかと思うと怖くて震えそうだった。


 でも!


 わたくしは腰の剣をすらりと引き抜いた。お兄さまがお誕生日プレゼントに贈ってくれた恐ろしいほどの切れ味を誇る剣。お兄さまとの絆を感じて、少しだけ胸が軽くなる。


 ドラゴンがわたくしを、正確にはわたくしの持つ剣を見た気がした。


 わたくしは立ち止まると、剣を左の腰だめに構える。


 一撃でドラゴンの首を刎ねる!


「アン・テイカァアあああああああああああああああああああああああああああ!」


 左下から右上に。斜めにすごく太い光の柱が走った。ドラゴンの首を狙った全身全霊の一撃。


 お兄さまがわたくしならできると言ってくれた。だから、わたくしがやらなくちゃ!

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