088 イベント
クラウディアと個室で話をしたその日のうちに、今度はエレオノーレに個室に呼ばれた。今回も人払いをされ、コルネリアも入ることは許されなかった。
最近は人払いが流行ってるの?
クラウディアは、エレオノーレがオレに好意を持っていると言っていた。にわかには信じられない話だが、そのあたりを確認したいと思っていたオレには、エレオノーレの誘いは渡りに船だった。それとなく自然に確認してみよう。
と、思っていたのだが……。
「…………」
エレオノーレがソファーにも座らずに、腕を組んでオレを見下ろしていた。怒りや苛立ちが窺える。どうしたんだ? なんで怒ってるの?
「お昼にお姉さまとお話していましたね? 二人っきりで」
「ああ。クラウに誘われたんだ」
「クラウ……。わた……がありながら……! でも、お姉さ……。きっとディーも……。そんなの……。わたくし……忘れないで…………」
「はい?」
エレオノーレがブツブツと呟くが、オレにはよく聞き取れなかった。
「ディー!」
「なんだ?」
「その……。ディーは、わたくしのこと愛し……」
ゴーンゴーンゴーンゴーンゴーンゴーンゴーン!!!
その時、まるでエレオノーレの言葉を遮るように鐘が鳴った。しかし、変だ。今は鐘の鳴る時間じゃないし、鐘は鳴り止むことなく鳴り続けている。まるで早鐘が鳴っているようだ。すぐになにか異変が起きていることがわかった。
「エレオノーレ殿下!」
「殿下! たいへんです!」
「えぇ!?」
異常を肯定するように、エレオノーレの取り巻きが血相を変えて個室に飛び込んできた。行儀のいい貴族の子どもたちである彼らが、こんな不躾な行動をするほどの異常事態。
もしかして、襲撃イベントか?
「おい、なにがあった?」
「ドラゴンが! ドラゴンがこちらに向かってきているんだ!」
「なんですって!?」
やっぱり襲撃イベントか。これは学園長が命と引き換えに追い払ってくれるから傍観一択だな。
ドラゴンは邪神の手先だ。その動向は邪神も監視しているはず。ここで目立っては邪神に優先的に狙われてしまうだろう。そういう意味でも学園長がその命と引き換えに追い払ってくれる展開がベストだ。
邪神に脅威として認識されないようにな。
「殿下! こちらへ! すぐに避難しましょう!」
「ですが……。他の生徒たちを放って逃げることはできません!」
「殿下……」
「ですが、しかし……」
取り巻きたちはなにを迷っているんだ? ここは逃げる一択だろ!
「畏れながらエレオノーレ殿下」
オレはエレオノーレに向かって跪く。
「ディー?」
「エレオノーレ殿下がご避難なされないうちは、誰かが命を張ってドラゴンを喰い止める必要があります。殿下はすぐにでも避難し、学生の皆に範を示すことが重要であると臣は愚考します」
「それは……」
「迷っている暇はございません。さあ皆様方、エレオノーレ殿下を早く安全な場所に避難させるのです!」
「殿下、失礼します!」
「あ、待ちなさい。わたくしは……!」
取り巻きたちに促されて、エレオノーレは渋々避難を開始した。エレオノーレが避難していないのに、自分たちが避難できるわけがないからな。余計な混乱を未然に防げて大満足だ。
「お前……」
「ん?」
気が付くと、エレオノーレの取り巻きの男が一人残っていた。
「佞臣の類ではなかったか……。なんにせよ、助かった。礼を言おうバウムガルテン子爵」
「律儀ですね。貴方も早く避難されては?」
「そうさせてもらおう。貴様がこれまで通りエレオノーレ殿下に忠を尽くすのなら、僕は貴様とエレオノーレ殿下の関係を応援させてもらおう」
それだけ言うと、男は駆けていってしまった。
オレとエレオノーレの関係って何だ?
まぁ、今はそんなことを気にしている場合ではない。早くコルネリアと合流して避難しないとな。
◇
ズシンッ!!!
腹の奥を揺らすような重低音。ついに漆黒のドラゴンが学園へと降り立った。
大きい。いや、バカデカい。学園の校舎よりも大きいその体躯は、狭そうに学園のグラウンドで身じろぎする。それだけで大地が揺れ、学園を囲っている塀がドラゴンの尻尾に薙ぎ倒された。
そんな規格外の巨竜に対峙しているのは、黒のローブを着た学園長と数人の教師だ。
まさかこんなにデカいとは思わなかったな。本当に学園長はこのドラゴンを追い払うことはできるのか?
「早く子どもたちを地下へ! 戦闘の心得がある者は来い! 時間を稼ぐぞ!」
これも魔法なのか、学園長の声がまるで校内放送のように響き渡った。
「お兄さま……」
「大丈夫だよ、リア。学園長はこの国一番の魔法の使い手らしい。ドラゴン相手でもへっちゃらさ」
「はい……」
不安そうな顔をしたコルネリアの頭を撫でる。
「お前ら! このまま前の生徒に続いて地下室まで行くように!」
「先生は?」
「先生はちょっと野暮用だ」
そう言って担任のボニファーツが生徒を置いて学園長の元に走っていった。たぶん死ぬだろうな。
学園長への信頼が厚いのか、はたまた愛する生徒を助けるためか、学園長の元には二十名ほどの戦士が集まっていた。
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