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085 ある日の教室

「よお、ディー。おはよう」


 オレは教室に入ると、爽やかな笑みを浮かべたリーンハルトから挨拶を受けた。


 前までお義兄さまなんて呼ばれていたんだが、この間のビアンカの件でリーンハルトの背中を押したのがきっかけなのか、オレはリーンハルトからディーと呼ばれることになった。


 リーンハルトの中で、コルネリアのお兄さんというコルネリアの付属品みたいな認識から、オレという個人を認識したのだろう。


 もちろんオレは、リーンハルトに愛称で呼ぶことを許していない。


 だが、言っても無駄なんだろうなと思って、黙認していた。


「リーンハルト、ちゃんとライナーに話を通しただろうな?」

「もちろんだ! しかし、驚いたぜ。あのライナーさんが本当に俺を弟子にしてくれるなんて!」


 ライナーは、この国でもトップクラスの冒険者だ。ゲームでは、主人公にはそのライナーの弟子になれるイベントがある。


 そこからライナーの好感度を上げていけば、邪神討伐の旅に出る時にライナーが仲間になってくれるのだ。


 経験豊富で強キャラであるライナーは、ぜひとも仲間に欲しいキャラクターだ。


 最近、オレはリーンハルトを個室に呼び出して、オレの持つゲーム知識から最善と思われる行動をリーンハルトに吹き込んでいた。


 だってこいつ、まるでイベント進めてないんだもん……。


 オレがリーンハルトにアドバイスしなければ、リーンハルトは一人で邪神討伐の旅に出るところだった。こいつは縛りプレイでもしてるのか?


「コルネリアちゃんおはよ! 今日もかわいいね。放課後にお茶でも……」

「あ?」

「……と、言いたいところだけど、今日は用事があるんだ。ごめんね」


 コルネリアを口説いていたリーンハルトを睨むと、リーンハルトは用事を思い出してくれたようだ。


 そうだね。お前は放課後にさっそくライナーの好感度を上げに行動しなくちゃダメだね。しばらくはライナーとお茶してろよ。


「さあ、こんな奴は放っておいて。行こうか、リア?」

「はい、お兄さま!」

「くぅーっ!」


 なぜか悔しげな声をあげるリーンハルトを置き去りにして、オレはリアを華麗にエスコートするのだった。



 ◇



「リアさんのお兄さまって本当に素敵ね」

「本当、本当。わたくしのお兄さまと交換してほしいくらいだわ」

「そうね、わたくしもリアさんのようにエスコートされてみたいわ」

「うん、うん」


 放課後。コルネリアが数名の女子生徒に囲まれていた。彼女たちはコルネリアのお友だちだ。そして、『ディートフリートとコルネリアの兄妹愛を優しく見守る会』の会員らしい。なんだよそれ?


 なんだか恥ずかしい名前の会員たちだが、オレやコルネリアに対して好意的なのは間違いない。コルネリアのいいお友だちになってくれればなんでもいい。


 なんでもいいのだが、なにかを期待するようにオレをちらちらと見るのは止めてくれ。


 まぁ、コルネリアは彼女たちに任せて、オレは自分の為すべきことをしよう。


 オレは椅子から立ち上がると、教室の最前列に向かって歩いていく。そこに居るのは、数人の生徒と談笑しているエレオノーレだ。


 まだ公表されていないが、クラウディアは王位継承権を放棄する予定だ。次期国王に内定してしまったエレオノーレは、苦手な人付き合いを克服するために柔らかい態度でいることを気を付けているらしい。


 無理して笑顔を浮かべるエレオノーレは、見ていてなんだか痛々しい。だが、これも彼女の決めたことだ。外野であるオレがとやかく言う問題じゃない。


 ただ……。


 オレは疲れてしまったエレオノーレの止まれる優しい止まり木でありたい。


「エル、少しいいだろうか?」

「ディー? どうかなさいまして?」

「話があるんだ。個室に行かないか?」


 その瞬間、時間が止まったように教室が静かになった。


 今までエレオノーレに呼ばれて個室に行ったことはあるが、オレがエレオノーレを個室に呼ぶのは初めてだな。


「おい子爵! 子爵風情がエレオノーレ殿下に向かってなんて口のきき方をしている!」

「そうだ! あまり調子に乗るなよ!」

「お待ちなさい。ディーに許しを与えたのはわたくしです」

「しかしエレオノーレ殿下、こういった手合いは際限なく調子に乗りますぞ?」

「殿下の名声にお傷が付かないうちに切り捨てることをお勧めいたします」


 なんかため口使っただけでえらい言われようだな。こんなことなら敬語を使えばよかった。だが、敬語を使うとエレオノーレが悲しそうにするんだよなぁ……。


「お黙りなさい。ディーはわたくしの……。わたくしの気を許せる友人なのです……」

「エレオノーレ殿下、御友人はしかと選ぶべきかと臣は愚考します」

「そうですわ。エレオノーレ殿下の御友人にはもっと相応しい方が居られるはずです」

「……わたくしはディーと個室に向かいます」

「エレオノーレ殿下!」

「いきますよ、ディー」

「ああ」


 オレはエレオノーレに促されるまま個室に向かう。


「子爵ごときが……!」


 貴族の子どもたちの隣を通り過ぎる時に悪感情をぶつけられる。エレオノーレの周りに居たのは、高位の貴族の子どもが多いようだな。


 彼らにとって、子爵なんて下級貴族が自分たちよりもエレオノーレに重用されているのは許せない現実なのだろう。

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