084 リーンハルト④
「お前、まさかビアンカのこと、好きなのか……?」
「はぁあ?」
なにトチ狂ったこと言ってるんだ?
「ビアンカのことを好きなのはお前だろ?」
「は!? 俺!? 俺はべつに……。あいつは妹みたいなもんだし!?」
目を逸らして露骨に動揺するリーンハルト。それじゃあオレの言葉を認めているようなものだ。
「じゃあ、オレがビアンカを貰ってもいいのか?」
「え……?」
試しに鎌をかけると、リーンハルトの顔から表情が抜け落ちた。そこにはいつものおちゃらけた雰囲気はない。睨むような鋭い視線がオレを射抜く。
「そんな顔をするんだ。ビアンカのこと、好きなんだろ?」
「違う! 俺は……」
「今のお前はいつもナンパしている時よりもいい顔してるぞ? それだけビアンカに真剣だってことだろ?」
「俺は……。そうなのか……?」
「そうだ」
「でも……。俺は貴族であいつはただの平民だ。そんなの許されるわけがない……」
こいつ、それはわかるのに、なんでただの男爵子息風情が王女に求婚することの無謀がわからないんだろうな……。
もしかしたら、リーンハルトはビアンカのことを無理やり忘れるために無謀な告白を繰り返していたのかもしれない。
「クラウディア殿下やエレオノーレ殿下に求婚するよりよほど現実的だぞ? どうしても無理だというのなら、側室として迎えればいいからな」
「側室……。俺は……。俺はそんな不誠実なことはできない……!」
「えぇえ……」
こいつの頭大丈夫か?
「なんで側室はダメで三股はOKなんだよ?」
「三股って言うなよ。俺は三人を平等に愛してるんだ。みんな俺の正室になってほしい。でも、側室だとかわいそうだろ?」
「…………」
うん。わけがわからん。
「じゃあ、こういうのはどうだ? ビアンカをオレの家の養子にする。その後でリーンハルトと結婚すればいい。それなら身分なんて関係ないだろ?」
「お前、天才かよ!」
リーンハルトが感動したように声を震わせる。そんなことにも気が付かなかったリーンハルトに、オレはなんだか情けない気分がした。
こんな奴が主人公でこの世界は大丈夫だろうか?
「これで身分の問題はなくなった。ビアンカと結婚できるな。それで、ビアンカとの関係はどうなんだ? 拗れてないよな?」
「あ……」
途端に表情を暗くするリーンハルト。なんだか嫌な予感がする。
「俺、ビアンカと結ばれることはないと思って……。ビアンカを突き放したんだ……」
「バカ野郎ッ!」
「へぶッ!?」
つい手が出てしまった。
「なにするんだよ!?」
「それはこっちのセリフだ! なにやってるんだよ!」
「だって、俺もビアンカも結ばれることが許されないなら、こんな気持ちは無い方がいいって思って……」
どの選択肢だ? 今までずっとビアンカを突き放すような態度をリーンハルトが取っていたとしたら、どこで好感度を逆転できる?
答えはもうわかってる。ゲームならビアンカとの復縁は難しい。
だが、これは現実だ!
セーブやロードなんて機能はない。やり直すことなんてできない。
だが、現実だからこそ、ゲームには無かった選択肢が生まれる!
「走れ、リーンハルト!」
「は?」
察しの悪いリーンハルトにやきもきしてしまう。
「いいから走れ! 今からビアンカにお前の気持ちを打ち明けてこい!」
「いや、だって……これから授業だぜ?」
「授業よりもビアンカの方が大切だろ!」
ハッとなにかに気が付いたように目を見開いたリーンハルト。
「だから行け! リーンハルト! 今すぐビアンカの心を取り戻すんだ!」
「おう!」
一度決めたことにリーンハルトは迷わない。すぐにソファーから立ち上がると、一目散に走り出す。授業開始の鐘が鳴っていることなど気付いてもいないだろう。
「これで最悪の事態は防げるか……?」
少なくともリーンハルトの冒険にビアンカが付いて行ってくれないと困る。
「あとは他のキャラクターの攻略状況も知りたいな……」
ここ王都はイベントの宝庫だ。仲間になるキャラクターとのイベントも盛りだくさんである。
願わくば、リーンハルトがある程度のキャラクターを仲間にしているといいのだが……。少なくともあと三人はリーンハルトの仲間が欲しい。
できればエレオノーレにもリーンハルトの仲間になってほしいところだが……。難しそうだな。これまでの三股のナンパから、エレオノーレはリーンハルトを嫌悪している。
それに、オレ自身もなんだかんだエレオノーレに情が移っていた。
エレオノーレをリーンハルトに渡したくないと思うほどに。
そりゃそうだろ?
エレオノーレはオレの一番の推しキャラなんだ。今までは主人公が居るから仕方がないと諦めていたが……。もう我慢しなくてもいいよな?
しかし、エレオノーレと結ばれるには、いろいろとハードルが高いな。
なにせ、相手はこの国のお姫様だし、エレオノーレを娶るには爵位も家格も財力も力もなにもかも足りない。
王様がもう少し貢献が必要とか言っていたし、国のために働いてみるか?
「それもいいかもしれないな……」
オレはソファーから立ち上がると、教室を目指して歩き始めた。静かな野望をその胸に抱きながら。
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