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083 リーンハルト③

「お手柄ですね、バウムガルテン卿。このことは必ず上に報告します!」

「ああ」


 王都の治安を預かる守備隊の隊長に褒められた。


 腰が重い守備隊だが、動くとなれば迅速らしい。まだ夜だというのに、これから下水道に潜るようだ。痕跡を消されないうちに押さえたいらしい。がんばってね。


「救出した子どもたちを保護してほしい。子どもだから難しいかもしれんが、有用な話が聞けるかもしれん」

「かしこまりました。子どもたちはこちらで預かります」


 救った六人の子どもたちも預けた。守備隊から親元に帰されることになるだろう。


「うお! くせえ!?」

「マジか……。これからここに潜るのかよ……」

「貴様ら! 泣き言など聞きたくなうおえ……っ」


 下水道はとんでもなく臭いからなぁ。守備隊に幸あれ……。



 ◇



 王都の守備隊と別れた後は、バッハと共に屋敷への道を歩く。


 もう夜も遅い時間だというのに、さすがに王都は格が違った。なんと、まだ明るいのだ。店から漏れる光で、松明が無くても歩くことができる。


 そして、まだ人通りもある。さすがに昼間よりもぐっと少ないが、歩行者や馬車が行き交う姿があった。


 たまに人とすれ違うのだが、例外なくすれ違う人間が眉を寄せていた。初めはなぜかわからなかったが、どうやらオレたちが臭いらしい。


「そんなに臭いんですかね? 旦那様は自分の臭いわかりますか?」

「わからん。だが、あんなに臭い下水道に居たんだ。臭いは確実に移っているだろうな。今はまだ鼻が慣れているからわからんかもしれんが、きっとかなり臭いのだろう。最悪、この服は捨てなくてはならんかもしれんな」

「うへぇ……。最悪ですね。この服、おろしたてなのに……」

「バッハには特別手当でも出すさ。それで新しい服を買ってくれ」

「はい……」


 大きなショックだったのか、前を歩くバッハがうなだれている。特別報酬を弾んでやろう。


「それよりも、帰ったら風呂に入らないとな。悪いがバッハは風呂の準備を頼む」

「了解しました……」

「バッハも入った方がいいぞ? なんなら一緒に入るか?」

「勘弁してください。俺にはそっちの趣味はないですよ……」


 そっちの趣味って何だよ?



 ◇



「あ! コルネリアちゃ~ん! 今日もかわいいね。どう? 俺と放課後にお茶しない? いいお店見つけたんだよ。コルネリアちゃんも気に入ること間違いなし!」

「けっこうです」

「え? あ! コルネリアちゃーん!」


 週末が空けて学園が始まると、日常が始まる。教室に入った瞬間に始まるリーンハルトのナンパからフラれるまでのセットもなんだか日常って感じがする。


 というか、こいつまだコルネリアを諦めてなかったのか。いい加減学習しろよ。


「リーンハルト、お前に話があるんだが、個室に来れるか?」


 オレはリーンハルトを個室に誘ってみた。なんとも頼りない主人公様が、このままで本当に世界を救えるのか不安になったからだ。


 なにせ、リーンハルトは教室の人間どころか、メインヒロインであるエレオノーレにまで嫌悪されている。他のキャラクターの攻略状況がどうなってるのか気になるだろ?


 それに、リーンハルトが失敗したら世界が滅ぶとか怖すぎる。オレはリーンハルトに世界を任せられるほど信頼しているわけじゃないぞ?


「あんだよお義兄さま?」

「そのお義兄さまっての止めろ。お前に重要な話があるんだ」

「重要な……。ひょっとしてあれか?」

「あれ?」


 あれってなんだよ?


 リーンハルトが居住まいを正すと、なぜか決め顔でオレを見てきた。


 オレにはそんな趣味はないんだが?


「なるほどな。そういうことなら早く言ってくれよ。わかった。今すぐ行こうぜ」

「ああ……」


 急に元気になったリーンハルトが不気味だ。


 オレはリーンハルトに肩を押されながら教室を出て解放されている個室へと入るのだった。


「それで? お義兄さまの話って何だよ? 早く聞かせてくれよ、なあ?」

「なんでそんなに乗り気なんだよ。気持ち悪いなぁ」

「ひでえ!? だが、そんなこといって俺に頼みがあるんだろ? ほら、言ってみ?」

「まぁ、頼みとも言えるか。お前の交友関係を訊きたい」

「まずは確認ってわけか? いいぜ。なんでも訊いてくれ」

「まずは座るか」

「おう」


 オレとリーンハルトは向かい合ってソファーに座った。前のめりのリーンハルトが不気味だ。思わず背を逸らしてしまう。


「それで?」

「まずは、お前には教会に所属している幼馴染が居るか?」

「うん? ビアンカのことか?」


 ビアンカ。平民だから姓はない。ゲーム『魔剣伝説』におけるもう一人のメインヒロイン。治癒魔法のスペシャリストだ。


「そう、そのビアンカだ。リーンハルト、お前とビアンカの関係は良好か? すれ違ってないか? ちゃんと想いを口に出して伝えているか?」


 ビアンカと主人公は幼馴染だが、主人公が学園に、ビアンカが教会に入ってしまったため会える時間が限られてしまう。


 そのため選択肢をミスると好感度が上がりにくい。そして、好感度が一定以上ないと、主人公の冒険に付いてきてくれないのだ。


 ビアンカは数少ないヒーラーだ。それもかなり有能な。絶対に仲間にする必要がある。


「急にどうしたんだよ? なんでいきなりビアンカのことを訊いてくるんだ? まさか……ッ!?」


 リーンハルトが大きなショックを受けたような、打ちのめされたような表情を浮かべた。

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