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082 邪教徒との戦闘

「貴様の治癒魔法の威力は大したものだ。だが、死者を蘇生することはできまい? さあ、そこをどけ! 俺を見逃すんだ!」


 邪教徒リーダーは勝ち誇ったようにオレを見た。深くフードを被っているため顔は確認できないが、その口元は大きく歪んでいるのが見えた。


「なんでアイツはあんなに情けないことを言って勝ち誇っているんだ?」

「旦那様、あまり刺激しては……」

「聞こえているぞ? どこまでもバカにしやがって! 本当に殺すぞ!」

「旦那様、どうしますか?」


 バッハが弱ったような小声で問いかけてくる。


 どうするかって?


 そんなの決まってる。


「アン・リミテッド……!」


 オレはバッハに答える代わりに唱える。自分の脳を騙す言葉を。度重なる修練の果てに手に入れた奇跡の名を。


 その瞬間、全身がカッと熱くなり、筋肉が膨張した気がした。


 オレは左足に力を籠めて下水道の床を蹴り飛ばし、一気に加速する。


 左足が粉砕骨折する慣れた感覚と共に、オレは邪教徒リーダーに肉薄した。


「な!?」


 とっさに子どもの体を盾にしようとする邪教徒リーダー。オレは子どもの体ごと邪教徒リーダーを斬り捨てた。


「バ、カな……!?」

「オレたちに人質は通用しないよ? その程度で止まる覚悟で動いていないからね」


 どうと倒れ伏す邪教徒リーダー。その顔は驚愕に歪んでいた。


 そして、邪教徒リーダーと共に斬り捨てた子どもは……。どうにか致命傷を免れたようだな。


「ヒール」


 粗末な服を着た子どもに淡い緑の粒子が吸い込まれていく。斬り飛ばされた右腕もしっかり元通りだ。


「さて……」


 オレはしゃがみ込むと、邪教徒リーダーの首元を探る。


「お!」


 邪教徒リーダーが首にかけていたのは、邪教徒の証ともう一つの首飾りだった。オレは邪教徒リーダーから首飾りを奪うと、しげしげと観察する。


「あった……!」


 なんの変哲もない木製の首飾り。これこそがオレの探していたレアアイテムだ。


 レアアイテムの名前は、気合いの首飾り。この首飾りを身に着けた者は、絶対に気絶、睡眠、昏睡のバッドステータスにならない。


 ただ一部のバッドステータスを阻止してくるだけの首飾りだが、ヒーラーにとっては最終装備候補にも名前が上がるレアアイテムだ。


 気絶や睡眠、昏睡状態というバッドステータスは厄介で、攻撃を受けるか、【ヒール】を受けるまで行動不能になってしまう。しかも、睡眠は攻撃を受けても50%の確率でしか起きないし、昏睡に至っては攻撃を受けても20%の確率でしか起きないのだ。


 確実に起こすには【ヒール】が必要なのだが、【ヒール】を使えるヒーラーが睡眠や昏睡していたら最悪だ。パーティは一気に危険な状態になってしまう。


 それを防いでくれるのが、この気合いの首飾りだ。


「こいつが居てくれて助かったな」


 オレは倒れ伏した邪教徒リーダーを見下ろす。気合いの首飾りは、この下水道エリアのボスのドロップアイテムだった。こいつがボスだったのだろう。


「ということは、この杖が気絶の杖か」


 オレは邪教徒リーダーが持っていた杖を取り上げる。木がねじくれた、なんとなく不吉な感じする杖だ。気絶の杖もボスドロップのレアアイテムだ。杖で殴った者を確実に気絶させる効果がある。


 まぁ、気絶は攻撃したら確実に起きるバッドステータスだからそれほど役立つアイテムではないが、レアアイテムであることには変わりはない。これも忘れずに回収しておこう。


「旦那様、無事ですか?」

「ああ、無事だ」

「子どもの方は?」

「そっちも無事だ」

「よかった……。急に飛び出すものだから驚きましたよ……。旦那様が子どもを見捨てたのかと……」

「すまんな」


 バッハが責めるような視線で見てくるが、べつにオレだって子どもの命がどうでもいいとは思っていない。助かればいいなくらいの気持ちはあるのだ。


「助かった子どもは六人だけか……」


 オレの呟いた言葉にバッハが沈痛な面持ちを浮かべた。


 意外だが、バッハは子ども好きだったりする。そして面倒見がいい。昔、お山の大将をしていた名残だろう。結婚して子どもを授かってからは、とくに子煩悩らしい。それにしても、まさかコルネリア付きのメイドをしていたデリアと結婚するとは思わなかったな。噂では尻に敷かれているらしい。


 まぁ、そんなバッハにとって、七人の子どもが命を落としたのは、やりきれない事実だろう。亡くなった子どもを見ながら、今にも泣きそうな顔をしている。


 バッハの様子も気になるが、もっと気になることが他にもあった。


 下水道の床に掘られた魔法陣だ。十三人もの子どもの命を捧げて、邪教徒たちはなにをしようとしていたんだ?


「バッハ、子どもたちを安全な場所まで運ぶぞ。感傷に浸るのはその後だ」

「はい……」

「それから王都の守備隊にも報告しないとな。オレたちだけでは魔法陣の解析などできん。子どもを運び終わったら、バッハには守備隊に報告に行ってもらう」

「了解です……」


 未だに沈んだ様子のバッハに指示を与え、オレたちは子どもを背負って下水道を後にしたのだった。

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