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081 邪教徒の儀式

 目に見えるような気さえする悪臭漂う下水道。見張りと思われる邪教徒を倒しておくに進むと、紫に光る一際明るい空間が見えた。そこからなにやら念仏のようななにかを唱えることが聞こえてくる。間違いなく邪教徒の連中はなにかの儀式をしているようだ。


 バッハとアイコンタクトを取り、更に不気味な紫の明かりへと近づいていく。


「ッ!?」


 バッハが突然止まり、身を震わせた。武者震いか?


 しかし、次の瞬間。バッハはなんの合図も出さずに紫の明かりの中へと疾走する。


 いったい何が?


 疑問に思った瞬間、オレはその答えを得た。


 血だ。濃い血の匂いが、下水道の悪臭を駆逐するほど香ってくる。


 見れば、邪教徒の女が縄で縛りつけた子どもの喉にナイフを走らせようとしていた。


 バッハはこれを見て飛び出したのか。


「バカ野郎がッ!」


 走り出したバッハの両腕が轟々と炎を纏う。バッハのギフトによる力だ。バッハは拳を振り上げると、呆然とした女邪教徒の顔面を殴る。


 ドゴオッ! ダンッ!


 女邪教徒の体は軽く吹っ飛び、壁に叩きつけられて意識を失ったようだ。


 カランカラン!


 女邪教徒の手から零れたナイフが硬い音を響かせて落ちる。


「な、何者だ!?」

「なぜここが!?」

「見張りは何をしていた!?」

「うるせえ! お前ら全員ぶっ飛ばす!」


 バッハが啖呵を切っているのを横目に、オレは様子を窺う。


 この空間は下水道の行き止まりのようだ。どういう原理なのか、燭台に刺さった蝋燭からは紫の炎が揺れている。


 残る邪教徒の数は十二。


「これは……」


 下水道の床に掘られた魔法陣。魔法陣をぬるりとした赤い液体が満たしている。


 血だ。


 魔法陣の端をよく見れば、縄に縛られた子どもがぐったりとうつ伏せに横たわっているのが見えた。そして、子どもからはぬらりと血が流れている。


 おそらく喉を掻っ切られたのだろう。むごいことをする……。


「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール……」


 ヒールを唱えること十二回。反応があったのはその半数以下の五人だけだった。反応が無いのは、もう既に死んでいるということだ。


 もう少し早く来れれば……。くそっ!


「この光は!? もう一人いるぞ! 殺せ!」


 邪教徒たちがジャラリと武器を抜く音が重なる。


「うらああああああああああっ!」


 しかし、邪教徒が武器を構えるのもかまわず、バッハが邪教徒へと突っ込んでいく。


 ゴシャッ!


 邪教徒の振るう剣を避け、邪教徒の顔面に拳を叩き込むバッハ。


「どらっ!」


 バッハは一撃で邪教徒の命を削り取り、剣を避け、回し蹴りを叩き込む。


 更に一人の邪教徒を倒したバッハ。しかし――――。


「ぐっ!? ごはっ!?」


 数の力ってのは暴力だ。いかにバッハの技量が個々の邪教徒を超越していようと、一対多ではさすがに多勢に無勢だ。


 バッハが攻撃を繰り出した時にどうしようもなく生まれる僅かな隙。その隙を突いて邪教徒の剣がバッハを斬りつける。


 防御もできずにまともに喰らったバッハはもはや死に体だ――――。オレが居なければな。


「ヒール」


 淡い緑色の光の粒子がバッハの傷付いた体を即座に癒していく。


「だりゃッ!」


 そして、怪我の治ったバッハがまた邪教徒相手に暴れ始める。


「くそっ! 先にアイツを潰せ!」


 邪教徒の指導者らしい男の言葉に、邪教徒たちがオレに向かってきた。


「旦那様!?」


 バッハの悲痛な叫びが響く。


 オレが並みのヒーラーだったら、たしかに大ピンチだろう。だが……!


「アン・リミテッドッ!」


 オレは並みのヒーラーじゃないぜ?


「せやッ!」


 剣を鞘で滑らせて加速させ、限界以上の力で振り抜くッ!


「がっ!?」


 オレに迫っていた邪教徒の体が縦に二つに裂けた。両断したのだ。


「なんだと!?」

「そんな……!」

「ど、どどどうなっている……!?」


 ゆっくりと左右に分かれていく邪教徒の男の体。


 人が両断されるなんて初めて見たのだろう。邪教徒たちの顔に恐怖が走る。


「オレは大丈夫だバッハ。残りを始末しろ!」

「へい!」

「さあ、邪教徒の諸君。お相手願おうか?」

「バケモノめ! 殺せ!」

「うああああああああああああああ!」


 ここは下水道の行き止まりだ。出入口はオレが押さえた。ここから逃げるにはオレを倒さないといけない。邪教徒たちは死にもの狂いで向かってくる。


 しかし、そんな邪教徒の後ろからバッハが襲い掛かった。


 前後を挟まれた邪教徒たちは、簡単に倒すことができた。


 邪教徒たちのリーダーを除いては。


「まさか、十二人居たのだぞ!? なぜ二人しかいない賊を倒せない!?」

「単純に弱いからじゃねえか?」

「バッハ、そんな正論パンチをしたら、相手が泣いちゃうだろ?」

「へへ、すいません、旦那様」

「ふざけやがって! いいだろう、貴様たちはこの俺が直々に処分してやる!」


 邪教徒リーダーは、二刀流のようだ。片手に剣を持ち、もう片方の手には、ねじくれた杖を持っている。


 オレはその杖に見覚えがあった。


 これは、当たりか?


 邪教徒リーダーとバッハが睨み合う。


「そうか! 貴様ら、これを見ろ!」


 邪教徒リーダーは足元に転がる子どもに気が付いたようだ。子どもを抱え上げると、その首元に剣を当てる。


「子どもの命が惜しくば、この俺を見逃せ!」


 さっきの強気はどこに行ったのか、邪教徒リーダーがそんなことを言い出した。

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