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080 下水道

 悪臭漂う暗くてジメジメとした空間。王都の下水道をバッハの燃える腕の明かりを頼りに進んでいく。


 できればこんな所には来たくなかったが、これも必須のレアアイテムを取るためだ。仕方がない。


「旦那様、言われるままに付いては来ましたが……。この先に何があるんです?」


 バッハが情けない声で訊いてくる。下水道の悪臭に辟易しているのだろう。


「…………」


 さて、なんてバッハに答えよう? オレはレアアイテムが欲しいだけだが、バッハにしてみれば、なんでオレがこんな所にレアアイテムがあるのを知っているのか疑問だろう。


 やはり一人で来るべきだったか? だが、今回の相手は万が一のことがあるから戦力が欲しかった。


 悩んだオレは、適当なことを言って誤魔化すことにした。


「バッハは最近邪教徒の活動が活発になっているのを知っているか?」

「邪教徒、ですか? 何ですか、それ?」

「バッハはもうちょっと世間に明るくならないとダメだぞ? いいか? 邪教徒というのは、邪神を信仰している危ない奴らだ」

「邪神を……。その邪教徒がどうしたんです?」

「最近、王都でも邪教徒らしい影が確認されるようになってな。邪教徒がこの下水道を拠点にしてるんじゃないかって噂なんだ」


 バッハが立ち止まってこちらを向いた。


「旦那様は、邪教徒を捕まえたいんですか? そんな危ない連中なら、王都の守備隊に任せればいいのでは? なにも旦那様が危険を冒す必要も無いでしょう?」

「守備隊なんて、決定的な証拠がなければ動かんよ。それに、急いだ方がいい」

「はぁー……。なんで旦那様は自分から危険に首を突っ込むんですか……」

「呆れてないで進めよ、バッハ」

「わかりました……」


 バッハは諦めたように歩みを進める。しかし、その姿は先ほどまでよりも戦闘を意識したものになっていた。


「それにしても、邪教徒ですか? そいつらはなんで邪神なんかを信仰してるんです? 邪神が復活したら世界が滅ぶってのに」

「さぁな。大方、世界を滅ぼしたいほど嫌なことでもあったんだろう」

「そんなもんですかねぇ……」


 いまいち納得がいかなそうな様子のバッハ。だが、オレは邪教徒たちの気持ちがわからなくもない。


 オレは前世では自殺するほど追い込まれていたし、今世でもコルネリアが死んでいたらどうなっていたか……。


 そういえば、ゲームでもクレーメンスに邪神の封印を解くように誘導していたのはディートフリートだったな。もしかしたら、ゲームのディートフリートは、邪教徒か、そうでなくても世界の終焉を望んでいたのかもしれない。


「旦那様、あれを……」

「ん?」


 バッハが急に腕の炎を消した。なにかあったか?


「明かりです。それも松明。間違いなく誰かが居ます」

「ほう?」


 バッハの向こう、たしかに揺れる赤い明かりが見える。夜更けに下水道に潜る物好きな奴なんて、オレたち以外には居ないだろう。松明の相手は、間違いなく下水道になにかしらの用があって来たはずだ。


 これは当たりかもな。


「どうします、旦那様? まさか本当に邪教徒が居るなんて……」

「制圧するぞ」

「……本気ですか?」

「そのためにバッハを連れてきたんだ。お前も風呂の炊き出しばかりでは体が鈍ってしまうだろう? 感謝してくれていいよ?」

「嫌な気遣いですね……」

「失礼な。喜びたまえよ」


 暗い中、バッハの顔が歪むのが微かに見えた気がした。


「さて、相手は何人居るのかわからんが、こちらの戦力は二だ。前衛にはバッハに立ってもらおう。必ず治癒するから思いっきりいけ」

「戦わないって選択肢はないんですね……?」

「ない」


 それからバッハと自分に強化魔法を施す。


「プロテクション、リジェネ、ヘイスト、クイック」

「いつもより体が軽い……?」

「新しく覚えたクイックの効果だな。ヘイストの上位版だ。じゃあ、いくぞ!」


 ゆっくりと相手の動きを窺うように進んでいくバッハ。オレはバッハの背に隠れるようにバッハに付いて行く。


 松明の元に近づいていくと、黒い外套を被った人影が見えた。間違いない。ゲームで見た邪教徒の姿だ。


「ッ! 誰だ!?」


 気付かれた!?


 その瞬間にバッハが疾走する。


 ドンッ! ドンッ!


 バッハは邪教徒が剣を抜く暇も与えず肉薄し、綺麗なワンツーを繰り出した。邪教徒の男は声も出さずにその場に倒れ伏す。


「見事だ、バッハ。鈍ってはいないようだな」

「ありがとうございます。それで、この男は本当に邪教徒なんですか?」

「間違いないだろう」


 オレは邪教徒の男の首元を探る。男はヘビが絡み付いた×の首飾りを身に着けていた。


「これが邪教徒のシンボルだ。教会の○のシンボルとは違うだろ? バッハも覚えておくといい」

「はい」

「邪教徒の連中がこの先で何かをしているのは明らかだな。いくぞ」

「はぁー……。わかりました……」


 なにか言いかけたバッハは、諦めたように溜息を吐くと、オレに付いてきた。


 邪教徒がここに居るのはオレの予想通り。邪教徒は今頃儀式をしているはずだ。問題はアイツが居るかどうかだが……。まぁそのあたりは運次第だな。

お読みいただき、ありがとうございます!

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