075 恋?
「お兄、気付かない?」
「ん?」
王都のバウムガルテンの屋敷の執務室。領からの手紙や報告書などを片付けていたら、リリーがやって来た。
リリーは目新しい楚々とした服を着て、もじもじとしている。まるで物語のお姫様のように清楚でかわいらしい。
この前、服屋で買った服を着ているのか。新しい服の感想が欲しいのだろう。いつも突飛な行動が多いリリーだが、普通の女の子らしい一面があったらしい。
「よく似合っているよ、リリー。今日もかわいいね」
「ん。こっちは?」
「はい?」
リリーの服装を褒めたら、いきなりリリーがスカートを捲ってみせた。白く眩しいリリーの脚の上、黒いスケスケのパンツが露になる。なに考えてるんだ、こいつ?
「リリー、はしたないぞ?」
「大丈夫、お兄だけに見せてる」
「そういう問題じゃない。淑女がスカートを捲るな」
「でも、男の人は夜ははしたない女が好き」
「今は夜じゃない。昼だ」
「ぶー」
オレはリリーの後ろに控えていたユリアに視線を送った。リリーの母親であり、リリー付きのメイドであるユリアならリリーを効率よくたしなめてくれるだろう。
「リリー? さすがにはしたないわよ?」
「でも、ママが押せ押せって」
「こら! それは内緒だって言ったでしょ!」
お前が黒幕かよ!? というか、親公認でオレを誘惑していたという事実に驚きだわ!?
「リリー? ユリアの言うことは気にするな。そういうのは将来の旦那さんのためにとっておけ」
「ん? リリはお兄と結婚する。将来の旦那はお兄」
リリーは本当にわからないと言わんばかりに無表情で首をかしげた。このあたりは本当に頑なだな。
もっとも、オレもリリーのような美少女に純粋に好かれて嬉しい気持ちがないわけじゃない。
だが、リリーの気持ちはオレが邪神の呪いを解呪した結果だ。
もしもリリーがお礼のような気持ちでオレのことを好きだと言っているのなら……。オレはリリーの好意を断らなければならない。そんな歪な愛情は、遅かれ早かれ破綻するからだ。
「リリー、とりあえずパンツをしまってくれ」
「ん。満足した?」
「満足ってなんだよ……。リリー、今から真面目な話だ。リリーはなんでオレのことが好きなんだ? もし、オレが邪神の呪いを解呪したから、そのお礼みたいな意味でオレのことを好きだって言ってるなら――――」
「それはない」
「そうなの?」
「ん」
予想外にキッパリと違うと答えるリリー。じゃあなんで……。
「じゃあ、なんでオレのこと好きなんだ?」
「好きになるのに理由が必要?」
「うーん……」
なんだか難しい話になってきたな。恋は落ちるものだって言葉がある。落ちているから制御不能なのだ。人は飛べないからね。
そのあともいくつか質問を重ねたけど、どうやらリリーはオレが危惧したように義務的にオレのことを好きだと言っているわけではないらしい。
自分から振った話だったとはいえ、淡々とオレへの愛を語るリリーの姿にオレは赤面しそうだった。
オレはリリーの愛にどうやって応えるべきなんだ?
オレもリリーもまだ若いから、さすがに結婚はまだ早いだろ?
じゃあ、その、つ、付き合う……とか? いや、それも早いだろ! なにを浮かれているんだ、オレは!?
でも、前世も含めて初めて女の子に、それも美少女に好きになってもらったんだ。心が舞い上がってしまうのが自分でもわかった。
頭の片隅で、コルネリアが不機嫌そうに頬を膨らませていた。
◇
今日は午後から服飾屋が屋敷に来た。普通の貴族は、店まで買い物に来ることなんて稀で、もっぱら自分の屋敷に商人を呼び寄せるのだそうだ。一つ賢くなったな。
「この子を直すことはできますか?」
コルネリアが持っていたのは、いつだったかオレがコルネリアに買ったクマのぬいぐるみだった。あの時はぬいぐるみ一つ買うのが精いっぱいだった。
クマのぬいぐるみは大切に扱われていたようだが、さすがに年月が経っているので所々傷み、右腕が取れかけていた。
さすがに新しいのを買った方がいいだろう。
「リア、新しいのを注文したらどうだ? 今度はもっと大きなクマのぬいぐるみにすればいい」
「それは……」
てっきり喜んでくれるかと思ったが、コルネリアは浮かない顔をしていた。
「どうした?」
「わたくしはこの子がいいんです」
でも、安い小さなぬいぐるみだし、壊れかけているしなぁ……。
「どうしてもそのぬいぐるみがいいのかい?」
「はい! この子はお兄さまが初めて買ってくれた子ですもの。わたくしにとっては妹のようなものですわ」
「そっか」
なんだがジーンとした気分だ。コルネリアがここまで大切に思ってくれていたことが嬉しい。
「リアの妹はリリ。お兄、リリにもぬいぐるみ」
いつも通りの無表情。しかし、ちょっと不満そうな雰囲気を滲ませたリリーがコルネリアとオレの袖を引っ張った。
クマのぬいぐるみに嫉妬したのかな?
子どもらしくてかわいらしい。
コルネリアもそう思ったのか、柔らかい表情を浮かべてリリーの頭を撫でたのだった。
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