073 アルトマイヤー将軍
「アルトマイヤー将軍に会いたい……ですか?」
学園の個室。目の前に座ったエレオノーレが小首をかしげた。
そうだね。いきなり国の重要人物に会いたいと言われても困っちゃうよね。いや、それ以前に不信か?
オレはアルトマイヤー将軍に会うためにエレオノーレにお願いしていた。エレオノーレは次期国王として長く過ごしてきたし、長年邪神の呪いに臥せっていたクラウディアよりも顔が広いだろうと思ったからだ。
「将軍に話を通すことはできます。ですが、受けてくれるかはわかりませんわよ? それ以前に、なぜ将軍にお会いしたいのですか?」
当然の疑問だな。オレの隣でコルネリアも不思議そうな顔をしている。
当然、オレも理由は考えてきた。
「以前、王宮に参上した際、アルトマイヤー将軍をお見かけしたのですが、将軍から病の気配がしたので……」
「それは本当ですか!?」
「さあ、オレの勘のようなものですので、外れている可能性はあります。むしろ外れていた方がいい」
「そうですか……。将軍が病……」
「あくまで可能性の話ですので」
「いえ、可能性は高いです。将軍は、病など気の持ちようでいかようにも治ると声を大にしておっしゃっていたのですが、最近は人が変わったように薬に頼って養生していると聞きます」
「なるほど……」
脳筋がやっと常識を知ったってところかな?
もしくは気合では治せない病になってしまったのだろう。
将軍が病の可能性は高い。
「おそらくですが、ディーが治療すると言えば、会談を受ける可能性があります」
「病であればもちろん治療します」
「お兄さまは病の人を放っておけないものね」
隣でコルネリアが嬉しそうに笑った。
オレはそんな聖人君子のような男ではないんだがなぁ……。
「将軍が病であれば国の一大事ですもの。よろしくお願いいたします」
「かしこまりました」
「ところでディー?」
「はい?」
「もう以前のように気やすい態度で接してくれませんの……?」
エレオノーレからビックリするほど弱弱しい声が耳に届いた。驚いてエレオノーレを見ると、彼女は眉を下げて今にも泣きそうな表情を見せる。
「いいのか? 一応これでも次期国王に配慮したんだが?」
「公の場では困ります。でも、ここは他の人の目はありませんからそんな配慮はいりませんわ」
「あの、わたくしも……」
「もちろん、リアもこれまでどおり接してくれると嬉しいですわ」
「やった!」
「いいのか?」
「お二人は数少ないわたくしの大事なお友だちですもの。むしろ気やすく接してくれないと寂しいですわ」
オレは王は孤独なんて言葉を思い出した。無論、エレオノーレにもオレたち以外に頼りになる人は居るのだろう。だが、その数は意外にも少なそうだった。
リーンハルトはなにをやってるんだ! エレオノーレがこんなに心細い気持ちを抱えているというのに、リーンハルトの存在はクソほどもエレオノーレの役に立っていないじゃないか!
むしろリーンハルトなんかよりもよっぽどオレの方が頼りにされているくらいだ。
どうしてこうなった……?
ゲームのシナリオでは、そろそろエレオノーレもデレてくる時期だというのに……!
そういえば、リーンハルトはエレオノーレ以外の仲間たちと接点はあるんだよな?
ちゃんとイベントをこなしてるんだよな?
なんだか不安になってきた……。
頼むから主人公は主人公らしくしてくれ。
◇
「ふむ。君がギフトが進化し、聖者のギフトを賜ったと噂のバウムガルテン卿か」
「お初にお目にかかります、閣下。畏れ多くも子爵位を賜っております、ディートフリート・バウムガルテンと申します」
数日後、オレはさっそくとばかりにアルトマイヤー将軍と会談していた。場所は王都にあるアルトマイヤー将軍の屋敷だ。
アルトマイヤー将軍は、頭を真っ白にした筋肉モリモリの老人だった。この人ならば、病なんて気合で治してしまいそうだと感じさせる。
「さて、今日は何用だ? エレオノーレ殿下たっての願いということでこの場を設けはしたが……。軍への奉職を希望しているのかね? 初めに言っておこう。儂は縁故人事は嫌いだ。実力の無い者が上に立つとロクなことにならん。君がどれほど治癒の実力を持っているかわからんが、一番下から始めさせる。君に実力があるのなら、その時は改めて目にかけよう」
たぶん、他の貴族から軍の要職に就けるようになんて要請が多いのか、アルトマイヤー将軍の態度は硬く、こちらを突き離すような響きがあった。
だが、オレはアルトマイヤー将軍に好感を持った。
この貴族が幅を利かせている世界で、実力主義を掲げているのだ。本質はわからないが、アルトマイヤー将軍と軍の実力は信じられるような気がした。
単なるわかりやすい敗因を作るために用意された惨めなモブキャラかと思いきや、一本骨の通った御仁のようだ。
いいね。そういう奴は大好きだ。
俺自身がモブキャラだし、定められたシナリオに打ち勝つためにあれこれ動いているからな。オレは謎の親近感をアルトマイヤー将軍に感じた。
それゆえに残念だな。この将軍が味方を引っ搔き回して惨めな最後を迎えることが。
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